春 秋 游 吟 30
2016年立冬より
霜月八日、凩一号吹く 立冬 凩(こがらし)や幽(かす)かに曳きし寂(さび)の絲 [凩一号=十、十一月吹き初めの約八米以上の北西風。波羅蜜て=孕みての意。]
犬(いぬ)蓼(たで)は輪(りん)廻(ね)波羅蜜(はらみ)てうら枯れし
あかまんま敗葉(やれは)あはれにうちしほれ
「埋む火(うづむび)」も「炭俵」も現代(いま)何処にや
しぐれ来て灯(ともし)ほのかにはな八つ手 小雪
木の葉ふり吾に纏わる愁ひあり
芋蔓を曳けばはらはら秋の彩(いろ)
氷雨ふり残りの花の独りざき
しぐるるや草木なべて蹌(うご)かざる [蹌(うご)く=「動」とは違い、「よろめく」のイメージなり。]
霜月末四日の初雪、五十二年ぶり 黄葉(もみぢ)ふるへ霜月の初雪(ゆき)おともなし
汎美術協会A・Y氏告別 み柩(ひつぎ)の はな丑(うし)紅(べに)に君逝く日 丑(うし)紅(べに)=寒紅ともいう。寒中の特に丑の日に製した紅は薬効ありと
空(うつ)蝉(せみ)や枯葉のしたの蟠(わだかま)り
空蝉=うつせみ。蝉の抜け殻だが、別に現世の人の意もあり。 鵯(ひよ)の晝あんず黄葉(もみぢ)の散らしさま
ひととせを奔り抜けたり師走かぜ 大雪
二〇一七酉歳・賀状の歳旦句 彩霄 聴酉囀 いろどりの霄(そら)はなやぎて酉(とり)うたふ
楢枯葉 降りて墓石に韻かすか
もみぢ掻けば はや待雪草(まつゆき)の芽ぐむさま
師走十一日スノードロップの一番花開く 待雪草新春(はる)待つ皓(しろ)の咲き初むる 待雪草(まつゆき)=待雪草、スノードロップ 皓=輝く白の意を含む。
茜雲 寒林梢に突き刺され
花枇杷や厨(くりや)へのびる夕茜 冬至
寂莫たり一陽来復 残り花
冬至・仲春に咲くべき立浪草の開花発見、異常気象
立浪草 新春(はる)も待たずにさき急ぎ
神田・駿河台への大石段 二句 おみなさかゆ 昇る石間に芽だし蒼(あを) ゆ=動作の起点や経過点を示す助詞。 万葉に「田子の浦ゆうち出て見れば…」がある。
男坂ゆ 降る石間に小(ち)さきはる ここに「女坂」「男坂」あり。どちらも長大な石段。 はる=春と張るの両義。小さな命が既に張りつつ…。
彩来楽会K・K氏入鬼籍、師走十九日 滅(けし) 紫(むらさき)に寒林かすむ君が俤(かげ) 合掌 紫はK氏の絵によく使われた色。
師走三十日、C・Y氏告別二句 木管の韻寂々と冬の瀬を Y氏はリコーダー(木管楽器)のプロ。
年の瀬や棹(さを)さすきみが後ろ影 合掌
二〇一七酉歳旦・世界平和を祈念して 鵬(おほとり)の飛びたちまほし去年今年 鵬=古代中国古典「荘子」にひとたび羽ばたけば偉大な叡智生ず…。
かぜ落ちて闇森閑と霜みつる 小寒
星辰の位置凍てつきて動かざり
鋼彩のかぜに起(た)つ香や寒の梅
探梅と敢へて言はずも香ぞにほふ
寒苔や蒼の蘇生に季うつり
神田川小寒二句 神田川蒼空(そら)の寒林鏡なす
寒鶺鴒ちちと川面をかぜ亘る
市ヶ谷の堀ふくかぜや寒の梅
冬凪や四谷の土手に蒼萌(きざ)す
駿河台の坂にひとときはる兆す
往きかひし乃木坂の女(ひと)はるにほふ
蕗の芽の土を割りたりはる焦り
寒梢 虚空(そら)の暗澹突きとほす 大寒
季(とき)はやし身は凍むれどもくさ萌葱
冬梢灰むらさきのかぜを織る
しづかなり ただ閑かなる寒のあめ
臘梅はひとの移り香 宵の夢
以下「立春」より「春秋淤吟」三一へ続く
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