ばぶさん『水仙月の四日』にあそぶ
雪の情景描写がなんとも綺麗なのです。 「・・・雲もなく研き上げられたような群青の空から、まつ白な雪が、さぎの毛のように、一面に落ちてきました。それは下の平原の雪や、ビール色の日光、茶色のひのきでできあがった、静かな奇麗な日曜日を一そう美しくしたのです。・・・」読んでいてうっとりさせられます。 一方大自然の中で綺麗とは全く別の雪の持つ厳しさを猛威や恐怖というスケールで描写しています。 ユキバンゴやユキワラシやユキオイノを登場させて吹雪というか雪嵐というかの描写をみごとな擬人法で縦横無尽に表現しています。
「水仙月の四日」に、二匹の雪狼(ユキオイノ)を従えた雪童子(ユキワラシ)が登場します。この物語の主人公です。彼は大自然の中に一人暮らしています。 ユキワラシは赤い毛布(ケット)をかぶって一人山の家路を急ぐ子供と雪山で出会うところから物語が始まります。出会うとはいっても子どもの側にはユキワラシの声も姿も感じ取れません。ちょっとした遊び心からでしょうか、ユキワラシは子供にヤドリギの枝を投げてよこします。それは子どもへの親愛の情を込めた贈り物でしょう。子供は不思議そうに枝を拾って家路を急ぎます。ユキワラシにしてみれば子どもがヤドリギを受け取ってくれたことで親愛の情が急速に深まったことでしょう。 天候が急変し、雪婆んご(ユキバンゴ)が別の雪童子を連れてやってきます。強烈な吹雪に巻き込まれ子どもは遭難します。ユキワラシは子どもの命を助けようと一途に健気の限りに動きます。 何故でしょうか?私なりの勝手な解釈を続けます。 私にはこの主人公のユキワラシが、かつて山の吹雪の中でわりと最近遭難死した子供と思えてならないのです。そしてユキワラシとしてついこのあいだ生まれ変わってきたのです。生まれ変わってきた記憶はユキワラシの中には微塵もありません。けれども赤いケットに身を包んだ子供の姿の中にそこはかとない何かを感じ取ったのです。それが子どもの命を助けたいという衝動の源です。 わりと最近生まれ変わった新参者のユキワラシと思う理由は三つあります。 ①彼が連れているユキオイノが二匹であることに対しユキバンゴが西のほうから連れてきた三人のユキワラシはそれぞれ三匹のユキオイノを従えています。 ②三人のユキワラシが全国区担当の中堅どころの経験者であるのに対し主人公のユキワラシはぽっと出の地方区担当の初心者です。 ③主人公のユキワラシにしてみれば今回の『水仙月の四日』というイベント参加はまさにデビュー戦です。ユキバンゴとの直接的な面識は限りなく初対面なので内的緊張は極限状態です。
1/20(土)の朗読会に向けてこんな風な勝手な解釈を添えて『水仙月の四日』の読み取り稽古をしています。ご都合のつく方はどうぞご来場ください。入場は無料です。
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