先日、元2年8組有志による新年会の折、中村道子(2年8組、3年9組)さんが以前偶然に見つけたと井出清児(2年8組、3年6組)くんが紹介されている本 伊丹十三著「再び女たちよ!」を持ってきてくれました。
ご存知のように伊丹十三は、映画「お葬式」「マルサの女」などで脚本・監督の他俳優やエッセイストとしても活躍し、彼の鋭い観察眼で井出くんを紹介してます。なおここでは井出情児と彼の芸名が使われています。
装丁 伊丹十三
放出品 引用元:伊丹十三 著「再び女たち!」文藝春秋 刊 昭和47年5月
私の年少の友人、カメラマンの井出情児君を紹介したいと思います。
私 情児の着ているのは、それは放出品? 情児 ええ、アメ横で買ってくるんです 私 帽子がおかしいやね。つばの裏が黄色で……靴も黄色だなあ 情児 これいいでしょう。バスケット・シューズ買ってきて自分で染めたんです 私 情児はそういう放出品にいつごろから凝っているわけ? 情児 ンーとねえ、高校のころから好きだったんですけどね、でも日本ではやり始めたのは去年の暮れあたりからじゃないですか? 私 そうだね、平凡パンチに特集が出ていたのは去年だっけ? 情児 いや、あれは今年でしょう? 私 そうだっけ――ま、いいや……それで? 情児 ウン。でね、ウッドストックなんかの映画でね、カントリー・ジョーなんかがきてたのなんかは、やっぱり印象受けたみたい。反戦歌を唱いながら軍服着てたでしょう 私 そういう一種のアイロニーみたいなものを全身から発散しようとして情児は放出品着ているわけ? 情児 ンーと、それもあるけど、ぼくはすごく実用的だと思ったんですけどね、すごく丈夫にできているし 私 絶対壊れないよね(笑) 情児 絶対来れないしね――なんか――汚れないしね――汚れが目だたないっていうのかな――それに、なんか――ぼくは体が小さいんでね、こういうの着るとブカブカになっちゃうんだけど、やっぱり、一種のなんか、カッコヨサっていうのかな――ありますよね? 私 かっこわるいカッコヨサがあるね、たしかに(笑)ええと、スケッチする間に品物を説明してよ 情児 ンーと、そうですね――ア、脚は長めに描いてください(笑)帽子は、これ、なんの帽子かわからないんだけど、裏が黄色で、ンーと、フリーサイズなんですよね、それでバンドがついてて締めつけて調節するんです 私 ほかにも色はあるの? 情児 ンーとね、赤があったみたい。オレンジがかった赤ですけどね 私 で、いくらだった? 情児 八百円だったのを五百円に値切っちゃった 私 じゃ、次、オーバー 情児 これは将校用かな、よくわからない。五千円っていってたのを三千円に値切ったんです。ねばったらなんでも負けてくれるみたい 私 情児が着るとちゃんと流行の長さになるからおかしいよな(笑) 情児 ンーとねえ、これはね、空軍ってのかな、要するにだからヒコーキノリが着る上衣だっていってましたね――あの、普通のはもっと襟がちっちゃいんですよね、これは襟にジッパーがついてて、襟の中からフードが出るようになってんですよね――ンでね、それがちょっとよかったていうか――ンでまあ、今着てる人のやつがほとんど陸軍のやつだから、でまあ、こっちのほうがいいんじゃないかとおもって 私 で、これはいくら? 情児 これは四千円だったのを三千円にしてもらった 私 じゃ、最後にジーパン、これはベル・ボトムっていうの?要するに裾が広がってパンタロンになってるのね? 情児 ええ、これはビッグ・ジョンのパンタロン――千八百円から二千円くらいかな、ジーパンのパンタロンは邪道だっていう人もいますけどんね 私 フーン、まあ、ともかくあれだね、情児のきているものは一応ちゃんと流行のスタイルになっているところがおかしいよね、一応、パンタロンでありさ、ミディのコートでありさ(笑)生けるポップ・アートという感じがあるね――情児は普通の服も持っているの? 情児 ええ、一応普通の服も持っているけど、でも、なんていうか――一着だけだし、それも夏物だし…… 私 夏になったらなに着るかね? 情児 そうですね、ンーと、あの、なんてのかな、手榴弾(しりゅうだん)なんか入れるポケットがついた袖なしのチョッキがあるんですけどね、あんなのなんかどうかなあって思ってるんですけどね――よく捜すと弾丸(たま)が当たった穴があいてるのがあるんですよね――あんなの着てみようかなあ、なんて思ってるんですけどね、今年の夏は |
伊丹十三氏によるイラスト
井出くんの雰囲気がよく描かれています
伊丹十三 wikipediaより
伊丹 十三(いたみ じゅうぞう、1933年5月15日 - 1997年12月20日)は、日本の映画監督、俳優、エッセイスト、商業デザイナー、イラストレーター、CMクリエイター、ドキュメンタリー映像作家。戸籍名は池内 義弘(いけうち よしひろ)だが、家庭では岳彦(たけひこ)と呼ばれて育ったため、本名・池内岳彦とされる場合もある。映画監督の伊丹万作は父。女優の宮本信子は妻。長男は池内万作(俳優)。次男は池内万平。ノーベル賞作家の大江健三郎は妹ゆかりと結婚したので義弟。ギタリストの荘村清志は従弟。料理通としても知られた。身長180cm。 来歴・人物 幼少 - 青年期 京都市右京区鳴滝泉谷町に生まれる。池内家の通字が「義」だったため、祖父の強い意向で義弘と命名されたが、父は岳彦と命名する予定だったため、家庭では父の意向により「岳彦」「タケチャン」と呼ばれて育った。 生後7か月で京都市右京区嵯峨野神ノ木町に転居。2歳の時、妹ゆかり(長じてのち1960年に大江健三郎と結婚)が誕生。 1938年4月末、父の東宝東京撮影所移籍に伴い東京市世田谷区祖師谷に転居。 |