モチモチの木・考 その3 臆病を超える勇気の源泉
ある夜じさまが急な腹痛を起こし苦しみもだえます。 怖くて夜中に一人でセッチンに行けなくても毎晩必ず付き添ってくれる大好きなじさまが腹痛で苦しみ悶えているのです。豆太はじさまとたった二人だけの山小屋暮らしです。 自分の他には誰一人頼れる人はいません。 イシャサマオ、ヨバナクッチャ!臆病を超えた勇気が豆太に沸きたちます。 豆太は仔犬みたいに身体を丸めて、表戸を身体で吹っ飛ばして走り出します。 なにしろ夜中に起きた突然のできがとですから豆太はねまきのまんま、ハダシで走ります。 片道2キロはあるふもとの村まで豆太は俄然奮起し医者様を呼びに夜道をたった一人ひたすら走ります。町中と違って街灯などともっていない山の中の道です。 峠の下りの坂道は、一面の真っ白い霜で、雪みたいでしたが、外はすごい星で、月も出ていた天候条件はかえって幸いでした。雪明りと月の明かりが孤独なランナーをサポートしてくれます。 霜が足に噛みつき、足からは血が出ましたが、豆太は泣き泣き走ります。 いたくて、さむくて、こわかったから、けれどもそれよりなにより、大好きなじさまが死んじまうほうが、もっと怖かったのです。じさまが死んじゃうなんて嫌だという強い思いが背中を押したことでしょう。
まだたった5歳の豆太の実に健気な行動です。無我夢中でひたすら頑張り通せた背景を考えてみます。大人に対して心置きなく甘えられるのは、自分がじさまから愛されている、受け入れられているという安心感と信頼感が豆太に育っていたからです。 人間は信頼に値する存在なのだという実感を体験できること、これこそが人間関係の基本です。 そしてさらに人は老若男女を問わず誰も彼もが、「自分を認めて欲しい、認められたいという欲求」と「誰かのために役にたちたいという欲求」を根源的に持っています。 じさまの言葉 人間、優しささえあれば、やらなきゃならねえことは、きっとやるもんだ。
モチモチの木…私の大好きな作品の一つです。
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