夕方、二階の窓から外を眺めると、空中に浮かぶ巨大なクモが。
オニグモです。なつかしいなあ。でもなぜなつかしいのかな?
オニグモが現れるのは必ず夕方。電柱や家のひさしなどに大きな巣を作っているのを見かけたものです。クモをいやがる人は昔もたくさんいたけれど、オニグモはなぜかあまり悪く言われなかったように思います。「悪い虫を捕まえて食べるから」かもしれませんね。そして家の軒先に巣を作るのはツバメといっしょ。だからかな?
そして、翌朝は巣もクモもなくなっていました。虫取りが趣味だったぼくは、このクモもねらっていて、明日の朝つかまえようなんて計画していたのに、みごとに姿を消しているのでした。ところが、夕方になると同じ場所に巣を作り始める。
クモといえば、小学生のころジグモとりがブームになったことがあったっけ。塀や生垣の根本にある巣をゆっくりと引き出して、中に隠れているクモを捕まえるというだけの遊びです。でも、海老茶色の宝石のような光沢が子どもたちを魅了したのかもしれません。
横浜には昔、ネコハエトリというハエトリグモを捕まえて闘わせる遊びがあったと先輩教師から聞いたことがあります。このクモを「ホンチ」と呼んだそうです。
三浦の乗馬クラブに居候したときのこと、部屋に巨大なクモが現れてパニックになったことがあります。オニグモよりはるかに大きなクモでした。「タランチュラ?」と思ったのですが、調べたらアシダカグモで、家の中に棲むことも多く、ゴキブリも捕らえるというクモでした。じつは横浜でもよく見かけます。東京で見たことがなかったのは、ただの偶然だったかも。空襲の焼け跡だったので、かなりの生き物が住処を追われていたかもしれないので。
ところで、オニグモがなぜ特別になつかしいのか、思い当たりました。オニグモが塀に巣をかけたあの家は、5年生の冬に、突然失ってしまったのでした。ある日、大人の男たちがドヤドヤとやってきて私たちを追い出したのです。「差し押さえ」だそうです。その家はまもなく取り壊され、クラブかなにかが立てられ、今はビルになっています。