怪物退治の犬の話
山形県高畠町には犬の宮という神社があるそうだ。そこにはこんな言い伝えがある。かつてここには高安(こうやす)犬という日本犬がいた。かつて高安に役人に化けた魔物が、住民に娘を差し出せと脅した。困った村の者が旅僧に訴えると、僧は甲斐の国から犬を連れて来たその犬は魔物に跳びかかって退治してしまった。魔物の正体は大狸と大ムジナだったという。その犬を祀ったのが犬の宮で、犬の子孫は高安犬と呼ばれた。三毛、四毛(しけ)が特徴だったそうだ。(現在の甲斐犬は虎毛が特徴だが、昔は三毛や四毛も珍しくなかったという。)高安犬は絶滅してしまったが、最後の高安犬については、戸川幸夫が「高安犬物語」という作品を書いている。
同じ山形県の鶴岡市大山地区にもよく似た伝説がある。こちらも魔物の正体はムジナで、退治したのは丹波から連れてこられたメッケ犬、メッケとは「滅怪」つまり物の怪を滅ぼすという意味だと言うのだが、高畠ではミケ、大山ではメッケ、つながりがありそうな気がするのだが。 大山では、毎年6月に「犬祭り」という祭りが催され、一度、お代官様の馬を引く役として参加したことがある。この馬が珍しいというかありえない豹柄だったので、「シマウマだ!」「キリンだ!」と妙な騒ぎになってしまったっけ。動物園の必要性を痛感したのだが。
7月21日発行の朝日新聞土曜版「be」の「みちのものがたり」に、静岡県浜松市と長野県駒ヶ根市に伝わる、これもよく似た伝説についてのルポが載っていた。こちらはムジナやタヌキではなくヒヒなのだが。浜松の見付天神が伝説の舞台、駒ヶ根の光前寺が犬が飼われていた場所だそうだ。 この記事によると、「今昔物語集」(平安時代)に話の元があるそうで、それが各地に伝わって、その土地を舞台にした伝説に変化したのだろう。
昔は、犬ももっと勇敢で人の役にたっていたのだぞ、と我が家の迷犬ハッチのだらしない昼寝の顔につぶやいてみる。
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