NHKのラジオ深夜便をたまたま聞いていたら、ジョウビタキの話をしていました。暖かい地方なら、冬鳥のジョウビタキを見かける季節だと思います。当地酒田では渡りの途中の秋や春、特に春によく見かけます。
以前、住んでいた横浜の団地の生け垣や、時々行った湯河原の幕山の麓にある梅林でよく見かけたものです。ヒッヒッヒ、カッカッカなどと鳴き、なかなか逃げないので人懐こいと思ったのですが、どうやら勘違いらしく、彼らは冬なのに越冬地で縄張りを作って、他の鳥を威嚇するのだそうです。しかし渡りの途中は雌雄別の集団を作るようで、庄内では運がいいと一箇所で何羽も見かけます。
写真は雄の個体で、何年か前の春、酒田市内の防風林で撮影しました。雌は地味な褐色ですが、雄と同じように翼に白い斑紋があります。ジョウビタキの別名はモンツキドリだそうです。
深夜便では、ジョウビタキの啼き声(威嚇の声)を紹介していました。
そもそもヒタキという名前は、ジョウビタキのカッカッカという声から、火打ち石を打ち合う音を連想したこと、カッカッカの前の序奏ヒッヒッヒからも火を連想したのだろうというのです。
ジョウビタキのジョウは「尉」です。老人を意味するそうですが、「尉」とは能楽の言葉ではないでしょうか。三番叟などで用いる老人の面(おもて)は黒い顔に白く長い眉毛があります。この面を黒式尉(くろしきじょう)とか黒尉(くろじょう)と呼びます。写真のように雄は頭が白いので老人を意味する尉と呼ぶのだと深夜便は言っていましたが、どうも黒い顔からも黒尉を連想したのではないかと思えます。
その黒い顔の老人のような小鳥が火打ち石を打つような声で鳴く、国文学の知識がある人か、または俳句の素養のある人は、ここで古事記を連想したかもしれません。倭健命(やまとたけるのみこと)の筑波問答歌です。
「新治 筑波を過きて 幾夜か寝つる」(新治や筑波を過ぎて何泊したのだろうか)
「かかなべて 夜にはここの夜 日には十日を」(数えますに九泊十日でございます)
尋ねたのはタケル、答えたのは野営の火を守る老兵(御火焚=みひたきのおきな)です。この問答は連歌の、ひいては俳諧の元祖とされるエピソードとされます。
黒い顔に白い頭は尉、つまり老人を、そしてヒ(火)ッヒッヒ、カッカッカから火を連想して、尉の鶲(ヒタキ)、ジョウビタキという名がついたのではないでしょうか。
あれ、変換してわかったけど、鶲というのは和製の漢字、つまり国字かな? 翁と鳥が合体しています。
へーえ、野鳥の中で一番文学的な名前かもしれないぞ。
ところで深夜便では、ジョウビタキは夏は美しい声でさえずると言っていました。同じく冬鳥のツグミも、クロツグミがあんなに素晴らしいさえずりをするのだから、美しい声にちがいありません。どちらも国内で聞くことはできないわけですが、ぜひ聞いてみたいものです。