水仙月の四日のなぜ?
水仙月の四日(宮沢賢治・作)のなぜ?
「水仙月の四日」(すいせんづきのよっか)は、『注文の多い料理店』に 収録されている作品です。当時はあまり評価されなかった作品です。 希少価値の高いあまりに美しい雪山の遭難文学です。 しかも遭難した赤いケットを被った子供が命を落とさずにお話は終わる という意味ではハッピーエンドの物語といえますでしょう。 登場人物をざっくり紹介しましょう。 物語の主人公の雪童子(ゆきわらす)は2頭の雪狼(ゆきおいの)を従え、 鞭を使って猛吹雪を起こす賢治さんのオリジナルのキャラ。 雪狼(ゆきおいの)というのは雪童子の言葉を解す忠実なしもべ達です。 自由に空宙を駆けまわり吹雪を起こす能力を持っています。 雪婆んご(ゆきばんご)は東北地方の妖怪を元にした賢治のオリジナルキャラ。 とがった猫の耳を持ち、雪童子達を使って猛吹雪を起こす冬の魔女(?)。 3人の雪童子たち9匹の雪狼を従えている。 父親が焼いた炭を橇に乗せて山を下り、食料などを仕入れる家事労働をしている 赤い毛布の子供。 ・・・● あらすじ ●・・・ 水仙月の四日に、二匹の雪狼を従えた雪童子(主人公)と赤い毛布をかぶった子供が雪山で出会うところから物語は始まります。 人間の目には見えない雪童子は赤ケットの子供にヤドリギの枝を投げて挨拶します。 子供は不思議そうに枝を拾います。急ぐ家路の途中で、天候は急変します。 雪婆んごが別の雪童子を連れてやって来たのです。 子供の命を救おうと主人公の雪童子は奔走します。 夜になって吹雪はおさまり、雪婆んごは翌朝満足して東に去ってゆきます。 だれもいなくなってから、雪童子は雪に埋まった子供を掘り出します。 しかし子供は最後まで雪童子の存在に気づきません。
・~・● 鑑賞 ●・~・ 岩手の春先には、突風をともなう短時間の吹雪がよく発生します。 それをモチーフにした童話です。 雪婆んごの手下である雪童子は、人間には目に見えない存在。 話し相手に恵まれず、雪の野山で鞭を鳴らし、友達といえるのは雪狼だけ。 悪戯で投げた(?)やどり木の枝のおかげ(?)で、こどもが振り向いてくれ、 死にそうになりながらもその枝を捨てずにいたことが、雪童子には嬉しかったのです。 赤い毛布のこどもに対して、情愛が生まれ、凍った雪童子の心に春がやってきました。 老若男女を問わず人は誰でも「誰かの役に立ちたい」、 「自分を認められたい(受け入れられたい)」という欲求を持っているものです。 赤いケットの子供の泣き声によって雪童子の中にわずかに熾火(おきび)のように 残っていた人間性が喚起されます。 すいせんづきのよっか の なぜ? ばぶさん流の解釈・想定&演出の試みどころ(おいしいところ) ●主人公の雪童子には2匹の雪狼……3匹でなく2匹という処が隠し味でしょうか。 この子はかつて吹雪で遭難死した子供(新顔・今回デビュー)の化身、 けれどもまだどこかに人間味の感性が残っています。 ●3人の雪童子には9匹の雪狼……ベテランの雪童子それぞれ3匹の雪狼の飼い主(?) ●雪婆んごと3人の雪童子の関係……百戦錬磨のコンビネーション、 〇主人公の雪童子は、雪婆んごと初対面?水仙月の四日というイベントも初体験 ●そもそも雪婆んごの立ち位置は? 人間ではない大自然界の猛威の化身、自然界の側の都合での営みをしています。 ●『水仙月の四日』って大吹雪の記念日? 例えば雪婆んごのそのまたおばあちゃんの祥月命日とか? 〇ヤドリギの枝……西洋では生命の再生・幸運の象徴です。 たまたまヤドリギだったけれども結果オーライとなりました。 〇雪童子が赤いケットの子供を助けたモチベーションは何でしょう? 『泣き声』の持つ力、もっと生きたい、死にたくないという願いや祈りの発露。 〇サバイバルな状況の中で吹雪の山で凍死しない知恵(経験智)を発揮します。 雪洞の中に隠れ込んで、吹き付ける強風から身を守り生き延びる。
※朗読は自由な解釈で鑑賞できる不思議世界。皆さんの「なぜ」を持ち寄って100倍楽しみたいものです。
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