親爺バンド、保育園へ
私たちのバンドに、保育園の卒園式で演奏してくれないかという話が舞い込みました。タイトルに「親爺バンド」と書いたものの、果たしてそうなのかと悩みます。中心はアラ卒世代、これはたしかに親爺ないしお爺ですが、そこに息子やその友人世代が助っ人で参加しているバンドをなんと呼ぶべきなのか? それはともかく、その若い世代の、キーボード担当のSさんが勤務する社会福祉法人の系列保育園からのオファーです。 Sさんは音大卒。地方都市では、求職者が職種を選べるほど求人があるわけではなく、若い世代の多くが介護現場で働いているという現実があるわけです。私たちのバンドが、たまたま夏祭りで演奏した自治会の副会長の息子で、キーボードがいなくて困っていた私たちの誘いを受け入れて参加してくれたのでした。 保育園は、鶴岡市の日本海沿岸にある小波止(小さな波止場の意味?)という漁港の近くにあります。前は荒海、後ろは断崖という厳しい環境から、子どもたちは海、山に親しみながら育てられているというのです。その小波止には、在来野菜のナスが伝わっています。ここでだけミズナスのように大きな実に育つのだそうです。春になっても海からの冷たい西風が吹きつけるここでは、日中、ナスの種を発芽させるためにお腹に巻くのだそうです。保育園ではそのナスを、お年寄りに教えられながら育てています。お腹に巻くのは自分がナスのお母さんになることだよ、と。それをSさんが歌にしました。その歌が、プロの劇団の目にとまり、鶴岡市中心部で演じたミュージカルに取り入れられました。そして、保育園の子どもたちが劇場のステージで堂々と歌ったのだそうです。ミュージカルは高円寺でも上演され、年長の子はいわば「東京デビュー」を果たしたといいます。 その年長さんの卒園式で、年長4人がそれぞれソロを歌うというのが、今回の卒園記念コンサートの中心でした。 バンド自身もバンドの持ち歌を披露するのですが、あくまでも彼らの発表のバックバンドを務めるのが今回のミッションというわけです。バンドの持ち歌としては、園長先生が好きだというグループサウンズの曲だとか、ナス栽培のコーチである地元のおばあさんのための「高校3年生」とか、保護者世代の受けを狙った「サボテンの花」とか。 前日、初めての顔合わせとリハーサル。会場である公民館で私たちが練習していると、お昼寝の時間を抜け出してきた園児の、曲に合わせて歌う元気な声が聞こえます。そこで彼らを呼び入れ、ミュージカルで歌ったという「ハトなすの歌……小さな種のものがたり」を弾くと、案の定大きな声で歌ってくれました。こうして子どもたちの緊張を解いてから、一人ひとりの演奏曲、「海、その愛」「春一番」「大空と大地の中で」「ヤングマン」の練習を果たしました。幼児特有のキンキン声ながら、音程は実にしっかりしています。でも、ちょっとミスすると涙ぐんでしまうナイーブな面も。 当日、子どもたちは、保育士の先生といっしょに考えた衣装や演出(たとえば『海、その愛』では、船乗りの制服や帽子……本物……を身につけ、張り子の船で登場するなど。)会場をわかせていました。実は卒園式では、小学校が友だちとは別になることとか、園長先生や担任の先生が退職や転勤を知ってか大泣きしていたというのですが。 ともあれ最後は園児たちとハイタッチして別れることができ、演奏のミスを忘れることができたのは嬉しいことでした。
というわけで、アマチュアの親爺(?)バンドが、保育園児と一緒に演奏するなんて、あまりないことじゃないのかと感慨にふけった次第です。(でも、来年もまた頼まれたらどうしよう?)
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