これはカリンといいます。
牡です。当時2歳でした。ぼくが入会したあとでクラブにやって来た馬で、オーナーが栃木県のクラブから買い付けてきたとのことです。調教済み、去勢済みということだったのですが、「えー?2歳で?」とぼくは半信半疑でした。
初対面の時、まぶたや口に赤黒いまめつぶのような腫瘍(?)がたくさんついていました。マダニです。血を吸ってふくれているのです。放牧場に放馬されていなければマダニがこんなにつくはずはないし、細やかなケアを受けていないことは素人のぼくにもわかります。去勢についても、後肢の間に小さなものが見えています。オーナー、そこを見なかったんですか?
オーナーが馬を買い付ける時、いったいどんなチェックをしているのだろうかと疑問に思うことがあったのですが、これもその疑問を増大させるできごとでした。
カリンもやはりアパルーサで、血統書があるのだそうです。でも、ぼくは「アパルーサの両親から生まれても、斑紋のない馬はアパルーサとは認定されない」と聞いたことがあります。日本とアメリカでは認定基準が違うのかもしれませんが。写真でもわかりますが、カリンはアパルーサというよりも、日本の在来種のように見えます。額の白い星がなければ木曽馬と言っても通るような面構えだし、馬革も小柄でした。(個人的な経験では、小柄な馬ほど、気が強ヤンチャです。)
まあ、モンゴルでも放し飼いの馬にいきなり鞍をつけて1日で乗れるようにしてしまうのだからなどと、無理やりな理屈でなんとか乗っていましたが、反抗されたときにどうすればよいのか、途方にくれることがよくありました。
クラブ閉鎖後、庄内映画村に移籍し、名前も「蔵王」と変わりました。冬は映画村が雪に閉ざされるので冬休みをとって帰ってきていると聞き、会いに行った時のこと。持参したマイサドルを載せて乗ってみたところ、以前よく拒止され、ようやく従うようになったコーナーで、やはり拒止し、いきなりかけ出しました。そしてクラブハウス前で急停止。ぼくは雪混じりのぬかるみにずるりと落馬。可愛い顔をした悪魔です。「ここで、こいつのせいで思い通りにできなかったんだ」などという記憶が蘇ったのでしょう。