近所の人からハタハタをいただきました。
12月はじめごろ、庄内地方では「大黒様のお歳夜」という行事があって、大黒像にハタハタやマッカ大根を供えます。なんでも大黒様が嫁を迎える日なのだそうで、ハタハタは味噌田楽などにします。また、マッカ大根というのは二股になった大根のことです。これを供えるのは、旅人に扮した大黒様が宿の主人が出した大根を食べたら風邪が治ったという昔話にちなんで、などと説明されます。ですが、民俗学的な見方をすると、見るからになまめかしいマッカ大根は、マレビト(客人=訪れの神)に提供する一夜妻の象徴なのではないかと推察できます。
いずれにしても、東北地方日本海沿岸の人は、ハタハタが大好きです。それも、湯上げという、茹でただけのものを醤油をつけてツルリと食べるのを好むようです。庄内人は一般的に煮魚を好むようです。サケやマスでさえ、お薦め調理の一番は煮つけなので、食の好みは地方によってさまざまなのだと思い知らされます。
さて話は変わりますが、視力が少し落ちたので、眼鏡を新調しようと思い、眼鏡店に行きました。Sという店で、酒田の中心部だった通りの近くです。この通りには、かつては36人衆という人たちが店を構えていて、今でも本間家の屋敷や、鐙屋という商人の店が保存されています。江戸時代まで、酒田は庄内藩に属しながら、36人衆による寄合で町が運営されていました。自由都市は堺ばかりではなかったのです。
S眼鏡店も、近くには黒板塀や時代がかった家が残り、もとは馬車の厩だったのではないかと思うようなガレージがあったりします。
酒田に転居してくる以前からこの店で眼鏡をつくるほど、我が家ではこの店をひいきにしているのは、検査やレンズ選びなどの技術が高いと思うことや、店主の人柄に惹かれるためです。店主は私たちよりははるかに若い人で、親から店を継ぐ前に、首都圏に「留学」しているそうです。
ただ、レンズクリーナーなどの小物を買いたいときなど、この店に行くことをためらってしまうこともあるのです。というのも、店主との話が長引いて、思わぬ時間を食うことが多いからなのですが、これはこの店の、というよりおそらく酒田商人の商売スタイルにあるのだと思います。
酒田の古い店には、椅子やテーブルをそろえた一角があることが多く、時にはお茶やコーヒーを飲みながら雑談を交わせるようになっています。
とはいえ、日ごろはスーパーや生協で買い物をすませることが多いので、実際に知っている店は、他には靴屋さんと菓子店くらいなのですが。
靴屋さんでも、足のサイズを計ったり、靴を並べる間も、店の人は様々な方向に話題を振り、とりとめのない世間話になります。こうなると冷やかしだけで出ていくほうが勇気が要るので、たとえ靴が合わなくても、なにか小物は買っていこうかというくらいの気にはさせられてしまうわけです。
眼鏡店も、顧客のデータを残しておくだけではなく、趣味や、来店時に興味を示した話題などがメモされているのでしょう。「写真はどんな時に撮るんですか?」なんて話を振られると、そうだ、前に来たとき「カメラを持って散歩するのだ」というようなことを話したっけ、と思い出します。
今回も、検査とフレーム選びに半日、出来上がった眼鏡のフィッティングに半日。てきぱきとやって方が能率は上がるのだろうが、このスタイルは変えようとしないのです。
京都では、観光客でにぎわうような店でさえ、奥から「一見はんは相手にしまへんえ」的な態度で怖い顔がにらみつけているほどとっつきにくいのですが、京文化を受け継いでいるという酒田の商人は全くスタイルが違います。
こんな商売のしかたもあっていいと思います。時間だけはたっぷりあるが、話し相手がいないなどという地方の高齢者には、ぴったりではないでしょうか。
だが、このスタイルはキャッシュレスになじまないでしょうね?