東京五輪の準備状況を監督する国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長がAFP通信のインタビューで「新型コロナウイルスの感染状況にかかわらず大会は来夏開催される」と発言したことに内外の市民社会は衝撃を受けております。五輪そのものが原発と表裏の関係にあり、福島事故の教訓を無視して「経済重視から生命重視への移行」を無視する立場にあることが改めて確認されたからです。
海外の市民社会の立場を反映する下記の資料をお届けいたします。
平成15年11月5日付Japan Times紙に掲載された前国際日本文化研究センター客員研究員でオックスフォード大学付属仏教研究所研究員のBrian Victoria 博士の遠藤五輪大臣宛メッセージです。
皆様のご理解とご支援をお願い申し上げます。
村田 光平
(元駐スイス大使)
遠藤利明五輪担当大臣殿 引用元:BRIAN VICTORIA Kyoto
2020年東京五輪が日本の経済復興を披露し得るとは残念ながら信じられなくなりました。 これまでのところ事態は逆で国立競技場、エンブレム問題などで時代遅れの不透明な政策決定の方式がマスコミで騒がれ、最近、下村博文大臣は辞任しました。 この政策決定の方式が最も深刻な問題で、今後も同様の挫折に何度堪えられるでしょうか。13世紀における道元禅師は『毫釐(ごうり)も差(しゃ)あれば、天地はるかに隔(へだた)り』という。つまり、初めの一歩を誤ればその結末には天と地の差が生じるとの趣旨を述べております。 この教えから鑑みて、今日の混乱のはじまりは安倍総理が2013年のIOC総会に置いて福島第一は“Under control”であるとし、放射性物質の流出は湾内0.3平方キロ内に閉じ込められていると言明したことから想起されます。 このような主張は、当時としては正しいと思われたにせよ、もはや有効ではありません。最近の福島地域を襲った台風18号が汚染水の海への流出を招いたことを東電側も発表しており、また、豪雨により比較的除染が進んでいた地域が近隣の山岳部一帯に蓄積していた放射性物質によって再び汚染された可能性が高いことを無視しております。また、1号機、2号機及び3号機からの溶解核燃料がどこに、どのような状態にあるかすら分かっていないことも考慮に入れていません。 残念ながら道元禅師は、真理から遠くかけ離れてしまったらどうすべきかは説いておりません。しかしながら、幸運にも村田光平元駐スイス大使は、傑出した理にかなった提案を行いました。代替地を選択するのに間に合ううちに日本が2020東京五輪開催から「名誉ある撤退」を行うというものです。
「月刊日本」9月号の記事で村田氏は、安倍総理がIOC総会での「福島はこれまでも、また、将来も東京に被害を与えることはない」との発言に対していくつかの具体的事例をあげてその誤りを指摘しております。
村田氏の主要な関心は過去にはなく現在と未来にあります。4号機の使用済み核燃料は2014年末までに取り出しを終えましたが、メルトダウンを起こした1号機、2号機及び3号機の溶解燃料棒は建屋周辺の放射線量が高すぎて取り出せない状況にあります。
村田氏の最も深刻な懸念は傍証が伝えられている福島第一での再臨界の発生の有無です。
村田氏は東京五輪そのものに反対しているわけではありません。 東京五輪は今直ちになすべきことのその前に大きく立ちはだかっているのです。今すべきことは、日本政府の全面的支援の下に世界中から最高の頭脳と技術を集め、全力をふりしぼり福島第一を真に“under control”の状態にすることです。 これにより太平洋を放射能汚染から救い、福島県住民をはじめとする多くの方々の苦しみと悲惨な境遇に手を差し伸べることができるのです。
村田氏は天地の摂理は不道徳の永続を許さないと述べております。 遠藤大臣殿、「名誉ある撤退」の訴えに与していただけるでしょうか。 以上 |