一向に静まる気配のないコロナ禍の中、先日国連総会の一般討論演説で菅総理が、来年夏の東京オリンピック・パラリンピックについて「人類が疫病に打ち勝った証」として開催すると決意を表明しました。
勝った証というのなら、勝ってから言って欲しいものですが。
それは兎も角として、はたして世界のどれだけの人たちが東京オリ・パラを開催できると思っているでしょう。そんな中、なるほどと納得できるインタビュー記事を見つけましたので、紹介します。(添付記事)
まさしく、先の大戦で負けると分かっている戦争に全国民を上げて突入していった、再現が予感させられる、嫌な雰囲気です。
また、東京オリ・パラの中止または延期の議論が全くないのも気掛かりです。
本間龍「東京五輪開催は99%あり得ない。早く中止決断を」 スポンサー企業に名を連ねた新聞社に五輪監視は不可能だ 引用元:2020.09.27. 論座 石川智也 ジャーナリスト
「もうやれないだろう」「それどころではない」
多くの人が内心そう思っているのではないか。
東京五輪・パラリンピックの延期決定からそろそろ半年。人々の会話から五輪の話題はもはや消えつつある。コロナ禍が経済と国民生活を蝕み続けるなか、なお数千億円の追加費用を投じ五輪を開催する正当性への疑問は膨らむばかりだ。
それでも国、東京都、大会組織委員会は、五輪を景気浮揚策にすると意気込み来夏の開催に突き進んでいる。
いや、突き進む、は不正確な表現かもしれない。組織委の現場ですらいまや疲労感が漂い、職員たちの士気は熱意というより惰性と日本人的な近視眼的責任感によって支えられているようだ。
まだ日本中に五輪への「期待」が充満していたころから東京五輪に反対してきた作家の本間龍さんは、いまあらためて「早々に中止の決断をすべきだ」と訴えている。
行き過ぎたコマーシャリズム、組織委の不透明な収支、10万超のボランティアを酷暑下に無償で動員する問題点などを早くから指摘してきたが、それ以上に、多額の税金を投じたこの準公共事業へのチェック機能を働かせてこなかったメディアに対する批判の舌鋒は鋭い。
「議論されて当然の問題が封殺されてきたのは、朝日新聞をはじめとする大新聞が五輪スポンサーとなり、監視すべき対象の側に取り込まれているからです。新聞は戦中と同じ過ちを繰り返すんですか?」
これまで大手メディアには決して登場することのなかった本間さんに、あらためて東京五輪の問題点に切り込んでもらった。
------------------------------------------------------------ 本間龍氏 〈ほんま・りゅう〉 1962年東京生まれ。1989年に博報堂に入社し、2006年に退社するまで営業を担当。その経験をもとに、広告が政治や社会に与える影響を題材にした作品を発表している。著書に『原発広告』(亜紀書房)『原発プロパガンダ』(岩波新書)『電通巨大利権』(サイゾー)『ブラック・ボランティア』(角川新書)など。 ------------------------------------------------------------
あらゆる判断材料が「中止」を示している ――安倍晋三前首相は2年あるいは4年延期論を振り切り、「ワクチン開発はできる」と来夏開催を早々に決めました。景気対策の効果をより早く出したいとの思惑があり、小池百合子都知事とも利害が一致したようです。しかし、NHKの7月の世論調査では、「さらに延期すべき」が35%、「中止すべき」31%、「来夏に開催すべき」26%(朝日新聞の調査では来夏開催は33%、再延期32%、中止29%)と、国民の意見は割れています。
東京五輪の開催はワクチンや治療薬の開発が間に合うかどうかにかかっていますが、可能性はきわめて低いでしょう。世界保健機関(WHO)は今月、コロナワクチンの普及は来年中盤以降との見方を示し、9月8日には世界の製薬・バイオ企業9社が拙速な承認申請はしないという共同声明を発表しました。
いくら政治の圧力で開発を急いでも、重篤な副作用が発生して訴訟沙汰になれば会社は潰れる。当然の判断です。
政府と都、組織委は9月4日に合同のコロナ対策調整会議を開きましたが、入国した選手を「隔離」して複数回のPCR検査を受けさせる、といった案が話し合われたらしいですね。でも選手やコーチ、関係者を合わせて数万という数の人の健康管理を徹底するのは、きわめて困難です。
また、事前合宿をする各国の選手を迎える「ホストタウン」が全国400以上で決まっていますが、多くはコロナ専用病床などない小さな自治体です。地域住民が不安なく受け入れられる態勢をこれから準備できるでしょうか。
――IOCと日本側は「簡素化」について話し合いを進めていますが、報道によれば、開閉会式の縮小にはIOCは否定的とのことです。簡素化の内容にもよりますが、どうなるにせよ、延期による追加費用は3千億円とも5千億円とも言われています。
IOCのバッハ会長は「熱狂的なファンに埋め尽くされた会場を目指している」と言っていますし、無観客や客席大幅削減での開催は、入場料収入や巨額の放映権収入をあてにしている組織委やIOCにとってはあり得ない選択です。
コロナ対策は「簡素化」の真逆をいくものです。選手村専用の感染検査態勢や機器等の準備、選手や関係者専用の病院と語学力のある医療従事者の確保、各会場やバックヤードでの検温器や空気清浄機、扇風機などの設置、その運用のためのマンパワーの確保……こうした対策費を上乗せすれば、追加支出が5千億円程度で済むとはとても思えません。
組織委はいまスポンサー企業への協賛金追加拠出を要請し始めていますが、組織委だけで負担しきれない追加費用は、一義的に開催都市の東京都が支払うことになります。つまり都民の税金で穴埋めするわけです。
――戦後最大とも言われる経済危機で、都はリーマン・ショック時の1860億円を大幅に上回る8千億円規模の緊急対策を発表しました。一方で財政調整基金は底を突きかけ、税収は1~2兆円の減収が予想されています。
明日の生活に困っている人がこれだけ発生しているのに、さらに数千億円も投じることが、都民や国民に理解されるでしょうか。
組織委の森喜朗会長は、中止した場合には費用が「2倍にも3倍にもなる」と言いましたが、その根拠を問われてもまったく明らかにせず、「たとえ話」とごまかしましたね。呆れる話です。バッハ会長は「再延期はない」という意向を示していますから、日本としてはなんとしても開催したいのでしょう。
でもこのまま来夏の開催にこだわれば、「簡素化」の反対の巨額支出が発生し、「安心安全」とは反対の感染拡大への不安が高まることは、小学生にでもわかることじゃないでしょうか。
それなのに、組織委も都も国も「予防措置を講ずればなんとか開催できるかも」「ワクチン開発が間に合うかもしれない」と期待を抱き、会場の賃貸料や組織委の人件費など莫大な出費を続けています。IOCはIOCで「2021年夏にこだわったのは日本だ」とすでに責任回避の予防線を張っています。
あらゆる判断材料が「中止」を示している。いたずらに決断を先延ばして淡い希望を抱かせるのは、世界中のアスリートに対しても失礼です。早々に撤退の判断をすべきでしょう。
招致時の数々のウソ~そもそも開催の大義はあったのか ――そもそも本間さんは招致決定のすぐ後から東京大会の問題を指摘し、その開催に反対だと言い続けてきました。
僕は五輪そのものを否定しているわけではありません。4年に一度、世界中のトップアスリートが集ってハイレベルの技術を競い合う大会を開くことじたいにはべつに反対しない。
でも東京五輪は問題が多すぎます。
まず挙げられるのは、招致時の数々のウソです。
招致委員会が発表した「立候補ファイル」には、7月下旬からの開催期間を「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」とあります。
近年の梅雨明け後の東京の気候を「温暖」などという生やさしい言葉で表現している人がいたらお目にかかりたい。大ウソです。
安倍首相による「アンダーコントロール」発言もそうです。あの招致演説の時点で福島第一原発の汚染水問題はまったく目処が立っていなかったし、その後の東京での建設業界の五輪特需により、被災地では人員・資材不足が深刻化しました。「復興五輪」と言いながら、むしろ被災地の復興の足を引っ張っている。「復興」は招致のための方便でした。
予算7千億円程度の「コンパクト五輪」のはずが、会計検査院によれば、すでに大会経費として国は1兆600億円を支出しています。表向きの大会予算1兆3500億円と都の関連経費を合わせれば3兆円超。際限のない肥大化です。
エンブレム問題や新国立競技場のデザインをめぐる混乱、選手村用地の不当譲渡疑惑といった不祥事も重なり、さらには、贈賄工作を行った疑いで前JOC会長の竹田恒和氏がフランスで予審にかけられるに至りました。
こうして挙げてみると、開催の大義がそもそもあったのか、きわめて疑わしい。
ボランティアは「やりがい搾取」 ――こうしたなかで本間さんが最も問題だと指摘してきたのが、ボランティアの問題ですね。
組織委によると、大会運営に関わるボランティアは8万人。これとは別に東京都が募集する「都市ボランティア」が3万人で、合わせて11万人にもなります。
どんなイベントも、入場整理や案内、警備、物販など現場を支えるスタッフがいなければなりたちませんし、五輪ほどの規模のイベントとなれば、これだけの数の人は必要なのでしょう。オペレーションだけで想像を絶しますが、それはともかく、組織委はこれだけのボランティアをすべて無償、つまりタダで使うことを前提にしています。
「全研修に参加できる」「10日以上あるいは5日以上活動できる」「最後まで役割を全うできる」といった条件を課しながら、日当も宿泊費も支給しません。僕は、これは明らかに搾取だと思っています。
――ボランティアというと、多くの人は「無償」というイメージを持っていますね。
ボランティアは「志願」「自主的」という意味で、無償などという意味はありません。にもかかわらず多くの人がボランティア=無償と思っているのは、タダで使いたい側の刷り込みによるものでしょう。
過去の五輪と同様だ、という説明は事実に反します。平昌大会ではボランティアのための宿泊施設と3食分の食事あるいは食費が提供されました。
ボランティア学の専門家によれば、ボランティア活動の中核的概念は「自発性」「非営利性」「公共性」です。地震や津波などの際に被災地に赴く災害ボランティアはまさにこれらの定義に沿うし、であればこそ、場合によっては無償で働いてもらうことに異論を挟む人はいないでしょう。
でも、巨大商業イベントと化した現在の五輪は、「世界中のアスリートが競い合う平和の祭典」から大きくかけ離れた、究極の営利活動の場です。東京大会は、その金満ぶりからいっても過去の大会と比べて群を抜いています。
電通が集めた巨額の協賛金。「中抜き」は? ――スポンサー企業はロンドン大会が14社(プロバイダー&サプライヤー企業を含め42社)、リオ大会が18社(サプライヤー企業を含め48社)でしたが、東京大会は67社でその協賛金は約3500億円にのぼっています。過去最高だったロンドン大会のスポンサー収入は11億ドルですから、その3倍の額です。
IOCのジョン・コーツ副会長も「驚異的」と言っていますね。しかもこの額は、IOCと直接契約して全世界で五輪ブランドを活用した広報活動を行える「ワールドワイドパートナー」14社による破格の協賛金を別勘定にしてのものです。
組織委と契約する日本国内のスポンサーは、東京大会では上から「ゴールドパートナー」(15社)、「オフィシャルパートナー」(32社)、「オフィシャルサポーター」(20社)とランク分けされています。
個々の契約金額はトップシークレットのため明らかにされていませんが、総額から推測して、ゴールドは1社あたり150億円、パートナーは60億円程度と考えられています。ちなみに、ワールドワイドは複数年あるいは複数大会契約で、1年あたり数百億円という桁違いの額を払っている企業もあります。
東京大会でこれだけの額の協賛金を集められたのは、従来ほぼ守られてきた「1業種1社」の原則を破ってまで、スポンサー収入の最大化を図ったからです。結果、食品業種で味の素、キッコーマン、日清食品が名を連ね、印刷業種で大日本印刷と凸版印刷が参加するといったカニバリズム(共食い)現象が起き、マーケティング価値は低下している。それでも多くの企業がスポンサーに入ったのは、ライバル社にだけ五輪ロゴをつけさせたくないという競争心を巧みに利用したからでしょうね。
そして、こうしたスポンサー企業の権利保護ばかり重視し過ぎた結果、アスリートが所属する企業や出身校でも壮行会を公開できないという事態が生じています。
今回の巨額の協賛金は、組織委の事務局に100数十人を送り込んでいる電通が事実上仕切って集めたものですが、その電通が管理料としてどのくらいのマージンを中抜きしているのかは、明らかにされていません。
東京五輪は極論すれば電通の電通による大会だ、と僕は言っていますが、こういう事情も多くの国民は知らないでしょう。
ここまで営利事業化、肥大化した現在の五輪が「おもてなし」「一生に一度」「世界の人々と交流」といった美辞麗句で多くのボランティアを動員し、日当も払わずに拘束するのは「やりがい搾取」「感動搾取」以外の何ものでもないでしょう。
あまりの待遇の悪さにSNS上で批判が高まったため、組織委は1日1千円の交通費を払うと決めましたが、地方在住者の上京費用や宿泊費は自己負担という方針は変わっていません。
――しかも、7月末から8月上旬、パラリンピックは9月上旬までという猛暑下の東京での「奉仕」になるわけですね。ちなみに今年は梅雨明けが遅かったものの、気象庁によると8月の平均気温は東日本で平年を2.1度上回り、統計史上最も高かったとのことです。
国が外出や運動を控えるよう呼びかける熱中症警戒アラートを出しているような環境下で、アスリートたちに競技をさせ、観客やボランティアをも危険にさらすわけです。組織委と都は、テントやミストシャワー、打ち水、遮熱材舗装、瞬間冷却剤の配布といった酷暑対策を打ち出し、予算も100億円規模に大幅拡大しましたが、どれも効果は限定的ですし、僕には戦時中の「竹槍作戦」と同様の悪い冗談にしか見えない。熱中症で搬送される人が続出すると思いますが、これも「自己責任」なのでしょうか。
組織委に「熱中症対策の責任者はだれなのか」と聞いても、「組織委として対策する」「組織委として責任を取る」としか答えない。これでは無責任の連鎖になりかねない。
酷暑という絶対に克服できない自然条件を重々承知したうえで、それを「温暖」と大ウソをついて招致に突っ走り、後になって、わずか1カ月程度のイベントのために大金を使わざるを得なくなっている。杜撰きわまる作戦計画で兵站を軽視し、揚げ句に精神論で乗り切ろうとして3万人の死者を出した「インパール作戦」の愚行と変わらないと思いませんか?
そもそも、なぜ真夏の開催になったのかと言えば、巨額の放映権料を支払う米国のテレビ局の都合だというのは公知の事実でしょう。
現代版「学徒動員」 ――放映権料はIOC予算の7割を占めると言われ、その半分以上を米NBCが払っています。NBCは東京大会までの夏冬4大会の放映権を43億8千万ドル、さらに2022~32年までの6大会の権利を総額76億5千万ドルで取得しました。
これも商業主義、営利事業の極みですね。商業主義路線に舵を切った1984年のロサンゼルス大会より前は、米3大ネットワークの都合で日程や競技時間が歪められるということもなかったので、開催時期については合理的判断ができていた。1964年の東京大会で組織委がまとめた公式報告書は、10月10日を開幕日にした理由をこう記しています。
盛夏の時期は、比較的長期にわたって晴天が期待できるが、気温、湿度ともにきわめて高く、選手にとって最も条件が悪いうえに、多数の観衆を入れる室内競技場のことを考えると、最も不適当という結論に達した 56年前よりもさらに過酷になったいまの東京の気候を少しでも体験したことのある人なら、「最も不適当」どころか「開催不可能」と言うレベルではないですか?
面白い話があります。
五輪反対を強硬に主張し続けているアナウンサーの久米宏さんが、自身のラジオ番組で「酷暑の東京での五輪開催は無謀」という内容の放送をしたところ、組織委から反論が届いたと。その内容は「招致の段階で開催時期は7月15日~8月31日から選択するものと定められていた。これ以外の日程を提案した都市はIOC理事会で候補都市としてすら認められていなかった」というものだったそうです。
これはまさに語るに落ちるというか、要は、開催時期は選べなかったんだから仕方ないという責任逃れと、最初から招致ありきで「アスリートファースト」などまったく考えていなかったということを、みずから告白しているわけです。
不安や批判の声を受けてか、組織委はボランティアを保険加入させることを決めましたが、それでどこまで不安が解消されるか。
――組織委が7月に実施した大会ボランティアへのアンケートによると、回答者の67%が活動時のコロナ感染症対策を不安と答えました。
コロナが収束していないのに無理に開催して酷暑の季節にマスク着用を義務づけることになれば、熱中症の危険性も増すことになりますよね。
ボランティア募集はすでに終わっていますが、平昌大会で直前に2千人のボランティアが離脱したように、今後やめる人が続出することも考えられます。もしボランティアが足りないといことになれば、自治体や勤務先や所属団体を通じた様々な方法による動員が行われることになるでしょう。というか、これはすでに起きていたことです。
組織委は2014年に全国800の大学・短大と連携協定を結んでいます。文部科学省とスポーツ庁も2018年7月、ボランティアに参加しやすいよう、全国の大学と高等専門学校に大会期間中は授業や試験期間を繰り上げるなどの柔軟な対応を求める通知を出しました。NHKがその直後に都内の約130大学に取材したところ、大会期間中の授業や試験をずらすことを検討していたのは79大学、ボランティア参加を単位認定する、もしくはそれを検討しているところは59大学もありました。
さらには、東京都や千葉県は「体験ボランティア」という名目で中高生をも組み込んでいます。あくまで「任意」「体験」という説明をしていますが、都は学校単位での応募方式を採ったため、現場では半強制的な割り当てと受け止めている教員も少なくない。
「就職に有利になるのでは」「内申書で不利になるのでは」といった不安や同調圧力からボランティアに参加しようとする生徒学生もたくさんいるでしょう。非営利性や公共性だけでなく、もはや自発性すら希薄化しています。現代版「学徒動員」と言ったら言いすぎでしょうか?
もちろん、みずから手を挙げた人も多いことは知っています。でも、僕にはこの「総動員態勢」がどうにも気持ち悪くて仕方ない。
こういう、自分が少数派になっているような気分にさせられるのは、やはりメディアが五輪を盛り上げるための報道ばかりしてきて、それに取り囲まれているからでしょうね。
――延期決定後、新聞でも来夏に向けた難題を解説する記事や、簡素化など大会の姿を問い直す記事は載りましたが、開催そのものを疑問視する報道はほぼ皆無でした。朝日新聞の開会1年前の企画記事なども、アスリートたちの葛藤やこれまでの努力を伝え、担当記者の「やはり五輪を見たい」という思いを紹介する、そんな内容が大半でした。
今年7月23日の開会1年前イベントは、白血病からの復帰を目指す池江璃花子選手を逆境にある東京大会そのものと重ね、なおも五輪が国民的イベントであることを演出しました。 2024年パリ大会を目指しているという彼女が、来年の開催を訴えるために駆り出されることを心底望んでいたのか、見ていて痛々しさを覚えましたが、メディアは無批判にその感動物語に乗っかりました。
延期が決まった直後の4月の段階で組織委は3800人の職員を抱えていますが、都、国、JOC、自治体、電通、スポンサー企業からの出向者と契約社員が支えています。苦しい状況下でも、スタッフも選手もみんな必死に奮闘しているのだから水を差すな、そんな空気をメディアが作りだしているわけです。
それでも、延期決定前に比べれば、開催断念の可能性に触れた記事や、コラムというかたちながら開催への疑問を率直に出した記事が載るようになってきたとは思いますよ。本当に来夏に開催できるのか不透明な情勢になってきて、書きやすくなったんでしょうね。
とはいいながら、組織委にとって触れてほしくない「核心的利益」に関することに触れた報道はない。それはつまり、これまで述べてきたような、猛暑下での五輪開催の是非、無償ボランティアへの疑問、大会の大義そのもの、組織委の収支の不透明さといった問題です。
ボランティアを有償にすれば、100億円単位で計算が狂ってしまう。IOCは1兆3500億円という予算上限を守ることを厳命していますから、これ以上出費を増やせるはずがない。この問題には触れたくないのです。
収支も、組織委は総額と項目は公表していますが、細目と個々の契約額は明かさない。しかし、五輪は表向き予算だけ見ても国1500億円、都5970億円の税金を投じて開催する準国家的事業ですよ。収支がつまびらかにならなければ、適切な事業なのかどうか国民や都民が検証することはできないでしょう。
でも、こうした組織委にとっての琴線に、大メディアが切り込めるはずがない。
全国紙すべてが東京五輪のスポンサーに ――国内スポンサー第二ランクのオフィシャルパートナーには朝日、読売、毎日、日経の各新聞社が入り、産経新聞社と北海道新聞社もその下のオフィシャルサポーターに名を連ねています。
つまり全国紙すべてが東京五輪のスポンサーになっているわけですが、きわめて異様です。
報道機関がこういうかたちで参画するなんて、ロンドンでもリオでもあり得なかった。スポンサーになって協賛金を払うということは、主催者と利益を共有する立場になるということです。公正な報道、ジャーナリズムとしての監視などできるでしょうか。
テレビ局にとっては、新聞社とクロスオーナーシップで結びついているという以上に、スポンサー企業と、組織委の広報を一手に握る電通の存在が大きいでしょう。テレビCMで3割以上のシェアを持つ世界一の広告代理店である電通は、特に放送業界にはなお強い影響力を持っています。
電通は社員の過労死自殺と持続化給付金事務事業の受託問題で世の批判を浴びましたが、電通批判は巨大広告に依存する業界にとってはタブーと言ってもいい。五輪を批判するということは、電通を批判することであり、CM出稿をしているスポンサー企業を批判することでもある。忖度が働くのは当然です。
さらに言えば、組織委には助言機関としての「メディア委員会」というものもあり、委員長の日枝久・フジ・メディアホールディングス取締役、副委員長の石川聡・共同通信社顧問をはじめ全国紙や在京キー局など大手メディアの幹部や編集委員ら39人がメンバーになっています。「翼賛」という言葉が浮かぶのは僕だけでしょうか。
各新聞社はスポンサー契約を結ぶにあたり「報道は公正を貫く」などと宣言しています。編集と広告・事業の間にはファイヤーウォールがある、と記者たちも言うかもしれない。
それなら聞きますが、朝日新聞が高校野球の女子マネージャーのあり方や炎天下の甲子園大会開催などに対して率先して批判的な記事を載せたことがあるのでしょうか。福島第一原発事故が起こる以前に、電力の寡占政策や原発の危険性と切り結んだ記事を書いたことがあったでしょうか。だれかに明確に止められたことはなくても、自主規制の蔓延があったのではないですか?
今回の五輪も、選手たちの思いを聞き、戦後復興の頂点としての前回東京大会を懐かしみ、メダル量産で地元開催を盛り上げたいという金太郎アメのような報道ばかりです。組織委が熱中症対策に頑張っている、苦慮している、という記事はたくさん載りましたが、真夏の開催の危険性やボランティア問題をきちんと検証し疑問を投げかける記事は皆無で、むしろ総動員機運を煽るような報道ばかりが目立った。
こうした問題をここ5年ほど発信し続けてきましたが、東京新聞以外の新聞、テレビから取材を受けたことは一度もありません(笑)。そんな僕のインタビューが朝日の媒体に載るんですか?
――報道の面では公正な視点を貫く、と朝日新聞はHPで宣言していますし、こうしたオピニオンを封殺すればそれこそ報道・言論機関として致命的で、経営的にもブランド価値を毀損するものでしょう。
なにも五輪に反対しろとか組織委を叩けとか言っているわけではない。税金の使途や使われ方をきちんと検証し、ごく当たり前の疑問点を当たり前に追及すべきではないか。そう投げかけているだけなんですけどね。
延期による追加費用のためスポンサー企業は協賛金の追加拠出を要請されていますが、コロナ禍で業績が悪化している企業にとって、いまやさらなる出費を正当化する理由は見いだし難い。中止となれば損害は甚大で、株式会社なら株主から責任を問われかねません。
もはやこの五輪はだれにとって得になるのかすら、わからなくなってきています。懐が潤って安泰なのはIOCと組織委のごく一部のオリンピック貴族だけじゃないでしょうか。
それでも、この巨大商業イベントは止まらない。太平洋戦争の時と同じで、だれも責任をとらず決断しないまま、泥沼化しています。もしIOCの主導で中止となったとしても、不可抗力のコロナ感染拡大があったのだから仕方がなかった、という総括になりかねません。
中止になってから、あるいは閉会してから手のひら返しするのでは遅い。メディアは、招致活動以来のこの五輪の問題点をきちんと検証し、後世のための教訓として残すべきです。さきの戦争での過ちを繰り返さないために。 |