所感「新生日本への期待」
東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故から10年がたちます。国会事故調査委員会は「事故は明らかに人災」とする報告書を提出しましたが、7項目の提言はほとんど顧みられず、背景にある「規制の虜」の問題も残ったままです。
原発に対する「安全神話」は国民を欺くものでありましたが、誰もその責任を問われておりません。 地震大国、津波大国、台風大国、水害大国の日本は、同神話に立脚する原発を全廃する責務があるのに、放置されております。しかも福島事故の「経済重視から生命重視へ」という教訓を忘れ、「放射能安全神話」を導入し、「原子力タブー」を温存して無責任、不道徳のそしりを免れない原発の再稼働が図られております。 しかも福島原発事故調直後に発令された原主力緊急宣言が発令中にもかかわらず、また、福島の状況が<under control>からほど遠いにもかかわらず東京五輪を招致するという過ちが犯されました。 コロナ・パンデミックは世界的に深刻度を増しており、先行きは不透明です。東京五輪については内外の市民社会は中止以外ありえないとみております。日本による福島事故対策及びコロナ対策への全力投球を妨げていることは罪深いと受け止められております。国際的にも福島事故に由来する放射能の危険性を無視していることが批判され、「放射能五輪」の綽名が生まれております。
特に深刻な東京五輪の影響は、発表される新型コロナ感染者の数を低く抑えるためにPCR検査の実施に重大な影響を与えたことです。コロナ検査数ランキング世界146位です。 今後の悪夢は死者数の増大を伴う変異ウイルスの感染爆発です。 すでに北海道への拡大が伝えられるなど、真剣な対応が急務となっておりますが、PCR検査の本格的拡充が緊急課題です。この見地からも五輪中止の決定の緊急な必要性を強く訴える次第です。
3月25日には聖火リレーが始まる予定ですが、五輪憲章の商業主義による死文化により、その理念が実感されない下での実施は関係者に迷惑と受け止められている兆候も見られるようになり、その先行きが懸念されております。 このほどドイツでは「福島を忘れるな」「440基余の原発の廃炉を」などの訴えを掲げるデモが行われたと報じられました。ドイツは福島事故直後、メルケル首相が倫理重視の体制を作り脱原発を決定いたしました。上述の日本との差が際立ちますが、経団連は8日、2050年の脱炭素社会実現に向け、原発の継続活用などを柱とした提言を公表し、最長60年間に限定されている原発の運転期間の延長を検討するよう政府に求めたと伝えられます。まだ続く原発への執着に市民社会はただ唖然とするのみです。
最近、不道徳の永続を許さない歴史の法則(天地の摂理)の表面化に伴う内外での潮目の変化が実感されます。 東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故の10周年を契機として新生日本の歩みが踏み出されることを期待してやみません。
村田光平 (元駐スイス大使)
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