森の林床を紫に染めて、タツナミソウが咲き始めました。
梅雨空が続いています。その晴れ間、わき目もふらず、リスがクルミを食べていました。緑の葉を透す光がリスを染めています。
先日はジュウイチの声を聞きました。あまり知られていないのですが、ホトトギス属の鳥です。したがって托卵(他の鳥の巣に産卵して育てさせる)をする鳥でもあります。昔、箱根に宿泊行事の下見に行ったとき、外輪山を巡るコースのあまり人の通らない道で、初めて声を聞きました。「ジュウイチイ!」と聞こえるその声に、ジュウイチという鳥がいたのではないかと思い当たり、帰宅後に調べると果たしてジュウイチという鳥が存在し、鳴き声もジュウイチだとわかったという経験があります。(鳴き声が『慈悲心』と聞こえるので慈悲心鳥ともいうそうですが、ぼくにははっきり『ジュウイチイ』と聞こえました。)
その時は5月で、ジュウイチ以外にもたくさんの鳥がさえずっていたのですがほとんどわからず、悔しい思いをしました。バードウォッチの趣味はないのですが、姿を見つけるよりさえずりを聞き分けられたら楽しいだろうと思ったのです。帰校して報告がてらそんなことを校長にぼやくと、校長の父親が野鳥の会の会員で、テープをたくさん持っているとのこと。それを借りて通勤時に車内で聴いて覚えたのが、野鳥の声を聞き分けられるようになったきっかけです。
というわけで、ジュウイチは野鳥に親しむきっかけになった鳥と言ってよいでしょう。
そのジュウイチは、先述のようにホトトギスやカッコウの仲間で、托卵をします。他の巣類の鳥の巣に産卵してヒナを育ててもらう習性を持つ鳥ですね。オオルリなどの巣を狙うとかで、開けたところを好むカッコウやホトトギスと違い、鬱蒼と茂った森にいるようです。
声は「ジュウイチイ!」。2つの「イ」にアクセントをつける鳴き方です。その「ジュウイチイ」を繰り返すのですが、そのうちにテンションが少しずつ上がっていきます。なにか必死な感じが加わって突然終わる。
それはたとえば、「じゅういち」という名の子どもが迷子になって、それを必死に探している母親の声のようにも聞こえます。
そこで思い浮かんだのが「呼子鳥」という言葉でした。万葉集に呼子鳥を詠んだ歌がいくつかあるのですが、その鳥の正体は不明だと、昔、古典の授業で聞きました。ホトトギスやヒヨドリだろうとか、特定の鳥ではないのではなどの説もあるそうです。
しかし、素人のぼくの直感ですが、ジュウイチこそ呼子鳥ではないかと思えます。森の中で聞くジュウイチの声は、尻上がりに高まっていく狂気を感じます。鳥を死者の魂だと信じたという古代人には、恐ろしく感じたのではないでしょうか。
万葉びとにとっては、山も木々も生き物も、私たちとは異なる姿で捉えていたはずです。山は神や悪霊の住む異界であり、生き物の声や風は、いや雲や煙でさえ、異界に属するものだと捉えていたのではないか。
素人だからこそ、無責任に想像できるわけですが、素人、侮るべからずでもあります。