以前、鳥海山麓にある猛禽類保護センターで、夜間、屋外に仕掛けた自動カメラに写っていた動物の記録を見せてもらったことがある。写っていたのはすべてノウサギだった。
ノウサギは昼間活動すると聞いていたので、別のトレッキングの会で、若いガイドに尋ねてみた。すると「ワシイヌワシやクマタカなどがいる地域では、用心して夜行性になることもあるでしょう。でも、たしかにノウサギは昼間活動します」とのこと。ただし、晴れた日には出てこないのだそうだ。影が雪原にはっきりと映るので、きけんだからだろうとのこと。なるほど、雪の上に映る木や枝の影は、いくら写真を撮ってもあきないほど美しくくっきりとしている。どんなに体を白い冬毛で覆っても、影が自分の姿をはっきりと見せてしまうだろう。
目の前の雪原にはノウサギがいるのかもしれない。でも動かなければ見えない。カエルになった気分だが、それが真相なのだろう。
ウサギやリス、ネズミなどの齧歯類は、危険を感じると凍りついたように動かなくなる習性がある。昔飼っていたシマリスも、ベランダにケージを出しておくと、上空を横切るカラスやトビの影に反応して、体を低くして凍りつくことがあった。まさにフリーズするのだ。
10年ほど前に酒田に移住してきて、毎朝散歩する近所の森で初めてリスを見つけた時、あまりの近さにこちらが驚いてしまった。ほんの5mほど先の木の枝にちょこんと座ったリスが、そのままじっとしているのだ。何枚も何枚も写真を撮ったが、少しもポーズを変えない。動いてくれないからこちらが動いて、正面や斜めで撮ったのだが、しばらくすると急に魔法が解け、あわてて木を登っていった。
動物の中には、危険な状況になると仮死状態になるものがある。いわゆる「死んだふり」というやつだが、本当は「ふり」ではなくて、実際に意識をなくしているらしい。リスのフリーズもおそらく、本能的な「仮死状態」なのだろう。動かなければ的に見つかるリスクは減るので、助かる確率が高い。
先日、やはり目の前に動かないリスがいた。油断して人が近づいてきたことに気づかなかったのだろう。目が完全にうつろになっている。しかし写真を撮るうちに意識がもどってきたらしい。あとでカメラのモニターを見ると、たしかに目が生気をとりもどし、こちらを見つめている。顔全体も少しずつこちらに向いた。たしかこの後、突然走り去ったのだっけ。
大人のリス、特に顔なじみのリスは、枝から枝へ跳び移りながら走り去ると見せて、いつの間にか近づいてきて近くでこちらを見ていることがある。その顔が好奇心に満ち、笑顔にさえ見える。ところが、ゼロ歳の若いリスはフリーズしてしまうことが多い。
リスに限らない。シカもサバンナのレイヨウも、子どもは危険な場面ではじっと動かなくなるものらしい。
ヒトも想定外の事態に逢うとパニックになって、やたらに動きまわるものらしい。まずは立ち止まり、冷静に考えることが、正しい対処のしかたなのだろう、きっと。
2013年撮影
フリーズ中
フリーズ解けた