別添の11日付日経新聞の「核融合発電、開発進む」、「欧州で発生エネ2倍」「コスト・廃棄物が課題」の見出しで核融合発電を取り上げております。
その実験装置「ITER」は当初六ケ所村に設置する案がありましたが、そこで使用されるトリチウム2キログラムは200万人殺傷する可能性があり廃棄物は4万トンが残る、そして中性子による環境破壊。放射能による地下水汚染。こういったものが予見される、そういうことでノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊先生と長谷川晃先生は絶対反対であるという嘆願書を当時の小泉総理に出された結果、「ITER」の六ケ所村ではなくフランスに設置されることになった経緯が想起されます。
市民社会は日経記事がこの重要な経緯に触れていないことを問題視して、長谷川晃先生(日本学士院賞、米国マックスウェル賞受賞者)に改めてこの記事に関するご感触を伺ったところ下記の回答を得ましたのでご報告いたします。
村田光平
(元駐スイス大使)
記 村田先生、昨日の日経新聞では核融合炉も放射線を出す旨を報じてました。
現行の核融合炉は放射線物質のトリチュウムを燃料とし、発生する高エネルギー中性子は原子炉の10倍のエネルギーを持つため炉壁などの容器を放射化するという意味で 放射性廃棄物を発生します。
このプロジェクトの推進者が地上に太陽を作ると綺麗な謳い文句を繰り返しているのも大問題で、太陽での核融合はトリチウムと重水素の燃料としていません。陽子同士の核反応で、同じ核融合でも全く異なった燃料と違う核反応をしているので地上で太陽を作るというのはミスリーディングです。
核融合発電、開発進む 欧州で「発生エネルギー2倍」 コスト・廃棄物が課題 引用元:日本経済新聞 2022.02.11.
原子核同士を合体させてエネルギーを生み出す核融合発電の開発に注目が集まっている。欧州各国の研究機関で構成するユーロフュージョンは9日、英国の研究施設で行った核融合の実験で過去の記録の2倍となるエネルギー量の発生に成功したと発表した。
核融合は安全性が現在の原子力発電より高いとされ、脱炭素への切り札として期待の声が高まる。日米も実証に向けた開発を続ける。一方で実用化までの期間が長いことやコストや廃棄物の問題もある。商用化までに課題は多い。
核融合は太陽と同じ核融合反応を地上で再現することから「地上の太陽」と呼ばれる。実験に参加した英国原子力公社(UKAEA)のチャップマン最高経営責任者(CEO)は「気候変動対策に核融合は大きな可能性がある」と強調した。
実験の成果は日米欧中印などが共同でフランス南部に建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)計画でも活用する。ITER計画は各国が資金や技術、部品などを持ち寄って進める世界最大の核融合プロジェクトだ。
今回のユーロフュージョンは小さいながらも実際の融合炉を使って5秒間もの核融合を維持したことが成果だ。より大きな装置となるITERへ応用される。ITERのビゴ機構長も「開発者に大きな自信を与えた」と称賛した。
核融合は超高温の重水素と三重水素(トリチウム)を閉じ込めて起こさせる。理論上は1グラムの燃料から石油8トン分という大きなエネルギーが得られる。さらに革新的と目されるのが安全性だ。
現在の原子力発電は核分裂の連鎖反応を利用する。制御がうまくいかなければ東京電力福島第1原発事故のような大事故につながる。核融合は燃料不足になった場合などは核反応が止まる。原発などで採用される核分裂に比べて制御しやすいとされている。
課題は多い。まず実用化の時期だ。核融合発電の商用化は50年代までずれ込むとの見方もある。地球温暖化問題の国際枠組みである「パリ協定」は地球の気温上昇を1.5度以内に抑えることを求めている。そのためには50年時点で炭素排出実質ゼロを実現する必要があり、間に合わない。
コストの問題もある。ITERの建設費は既に人件費がかさむなどして総建設費が約2兆6千億円にまで上っている。再生可能エネルギーや従来の軽水炉などに対してコスト競争力がなければ普及拡大は望めない。
日本でも国の量子科学技術研究開発機構(量子研)の茨城県内の施設で研究が進む。量子研の実験装置は核融合に必要なプラズマ状態を近く試験で再現する。20年12月ごろに試験に入る予定だったが、新型コロナウイルス禍で遅れた。文部科学省は核融合に毎年、約220億円を出している。
高レベルではないが、核融合でも放射性廃棄物が出る点は通常の原発と変わりがない。世界では福島第1原発事故後、原子力技術へ懐疑的な見方が根強い。商用化まで乗り越えるべき課題はなお多い。
(気候変動エディター 塙和也) |