庭とも言えないような我が家の玄関近くに雑草として生えているスミレに、黒い毛虫がいるのを見つけました。人から虫好きと思われているぼくですが、毛虫はもともと苦手。でもこの毛虫には見覚えがある。「ついに来たか」と思ってしまいました。
黒い毛虫といっても、体の背中部分に赤いすじがあり、黒い毛にはいくつもトゲが生えています。
ツマグロヒョウモンの幼虫
鋭いトゲ
スミレを食べるのはヒョウモンチョウの幼虫。これはあのツマグロヒョウモンではないでしょうか?
ツマグロは関東地方ではもはや珍しくない蝶ですが、山形県内陸部では、最近目撃情報が増えています。
初めて見たのは横浜でした。大きな台風が通過した後です。横浜で大型のトラックが駐車場で何台もひっくり返った台風の時ではなかったかと記憶します。
職場の校庭をフラフラと飛ぶオレンジ色の、見たことのない大きな蝶。追いかけて捕まえ、図鑑で調べました。最初、カバマダラというのが似ていると思ったのですが、それは沖縄などの南方の蝶。別のページにはツマグロヒョウモンが載っていました。なるほど、雌の翅はカバマダラに似ていますが、翅全体はヒョウ柄のもようです。
台風の後、見慣れない蝶が捕まるという話は聞いたことがあります。台風の中心部から抜け出せなくなった蝶が、遠くまで運ばれるためで、迷蝶などと呼ばれるそうです。そのときのツマグロがその迷蝶だったのかどうかはわかりませんが、これを境にこの蝶を見かけることが多くなった気がします。
ツマグロは、もともと沖縄などに限定して分布する蝶で、雌だけ前翅の先端が黒く、斜めの白い筋があります。有毒のカバマダラに似せている、つまり擬態しているのだそうです。しかしどういうわけか北に分布を広げ、カバマダラのいない地域にまで広がったというのです。地球温暖化の影響と言われているのですが、故矢島稔先生は、園芸ブームの影響だと言っていました。というのは、ツマグロなどヒョウモンチョウの仲間はスミレ科の植物を食草にしますが、園芸ブームでパンジーやビオラが人気になり、苗と一緒に卵や幼虫が運ばれたのだろうというのです。しかし冬は越せないのではというが矢島先生の見解に反し、事実上分布地域を北上させてきたのです。
初めてツマグロを見た年の秋、道端のスミレに黒い毛虫がついているのを見つけて、自宅に持ち帰り、世話してみました。帰宅時にスミレの葉を少しずつ持ち帰って。
毛虫はすぐにサナギになりました。サナギは逆さにぶら下がる姿で、背中にある数個の角がCDのようにキラキラ光っていて、それで鳥の眼をくらますのだろうと思いました。
羽化したのは残念ながらツマグロのない雄で、翅が全てヒョウ柄でしたが、翅の裏側の模様が美しく、何度も写真に撮りました。しかし、後に手違いで写真記録を削除してしまい、記憶だけに残っていたのです。
山形県に移住して残念なことの一つは、ここにはツマグロヒョウモンがいないことだったのですが、10年以上もたって、ツマグロかもしれない毛虫に出会ったというわけです。
我が家の毛虫は一株のスミレの葉を食べつくしそうです。このまま蛹になればよいのですが、飢えて死んでしまうのは気の毒。それで、離れた場所の別の株に移してやりました。
ところが翌朝毛虫を見ると、いなくなっています。せっかく移してやったのに気に入らないのかな? それとも今度こそ蛹になる旅に出た? しかししばらくするとちゃんと株に戻ってきています。しかし、きつい日差しが当たり始め、このままだと蛹になるより先にミイラになりかねません。もう屋内に招待するしかなさそうです。
大きめの瓶にティッシュを敷き、スミレの葉を2~3枚、根元を濡れティッシュで包みラップで覆って瓶に入れ、割りばしを入れてやりました。割りばしは蛹になる足場としてのもの。そうして毛虫を迎えに行ったら、あらら、またいなくなってる。近くの石の下、ブロックの陰、ツバキの木、どこにもいません。今度こそ蛹への旅かな? 迎えに来るのが遅かったのかい?
ところが夕方、念のためにチェックすると、なんと再び戻っている!
毛虫って目が見えないはずだし、脳だってあるとも言えないような小ささじゃなかったっけ。ファーブルは神経節とか言ってなかったか?でも、毛虫は日差しを避けて避難し、涼しくなると元の場所に戻ってくる。ちゃんと記憶力がある!
これがツマグロヒョウモンなのかどうか確かめたいので、やはり招待しました。うまく蛹になってくれれば。ツマグロの成虫に再会できるかも。できれば雌であってくれるといいなあ。