生物の名前は、その地域で昔からそう呼ばれているものから、発見者が個人の趣味でつけた名前までその由来はさまざまなのだろう。
5年生の時、区の科学教室で行った「葉山の磯の生物採集」で、小さなまん丸いカニを見つけ、あまりのかわいさに持ち帰ったことがある。講師の先生に教えてもらった「スベスベマンジュウガニ」という名前が、いっそうかわいく覆えたものだ。でも先生はおしえてくれなかった。そのカニが猛毒を持っていることを。
水鳥の「キンクロハジロ」は、目のフチが金色、黒い体、白い翼で、初めて見てもすぐにわかる。だがなんという面白味のない名前だろうか。
有名なトゲナシトゲトゲは、トゲが特徴のトゲトゲという昆虫の仲間でトゲのないものがみつかったのでつけられた名前だそうだ。しかしその後、トゲがあるトゲナシトゲトゲが見つかったので、「トゲアリトゲナシトゲトゲ」と名づけられたという。学者の一般人には理解しがたいユーモアのセンスなのか、それともひたすら真面目な学者根性のなせるわざなのか。
NHK山形では、ホームページに「トテケロ」というコーナーがある。山形県内陸方言で「撮ってくれ」という意味だという。視聴者が撮った写真を投稿できるのだが、そこに投稿される「ウラシマソウ」と「マムシグサ」のコメントを読むと、人々が、動植物の名前にどう影響されるかがわかる気がしておもしろい。
最初の写真は、花が緑と白の縦じまで、個人的にはモダンで美しいと思う。葉と花が同じ株についていて、花屋さんにあるカラーの仲間だとわかる形だ。写真ではわからないが、茎にはまだら模様があってヘビ川のように見えるので、マムシグサという名がついたのだろう。
次のは、ミズバショウのように花が葉と別に地中から出てくる。濃い紫が不気味で、苞の一部が長く伸びて垂れているので、ネズミが花に食われてしまったのかと思う人もいるだろう。これをネズミのしっぽではなく釣り糸に見立てて「ウラシマソウ」という名がついたらしい。
そしてコメントを読む限り、マムシグサは「気味がわるい」「嫌いだ」というものが目立ち、ウラシマソウは「かわいい」「不思議だ」という好意的なコメントが多い。自生地でもウラシマソウは盗掘されることがある。盆栽にでもするのだろうか?
学者さんたちは、発見した新種に名前をつけるとき、名前がもたらす影響を考えているのだろうか。考えていないだろうなきっと。あのトゲアリトゲナシトゲトゲの例でもそれがでわかる。