春 秋 游 吟 06
白 秋
冷夏なり 情命(いのち)の果てを想ふほど [立秋]
つひの蝶葦切るかぜを如何に聴く
団栗三句 団栗や静寂(しじま)つらぬき甃(いし)を撃つ
団栗を踏む韻(おと)ひしと受け止めぬ
団栗を 甃(いし)に踏みなほ想ひあり
◇ ◇ ◇
本郷の坂に汗ばみ晩秋(あき)散歩 [霜降]
霜月やしぐれる郷(さと)の錆び浅葱 《錆び浅葱=僅かに青みがかった灰青色、古代色》
玄 冬
凋落をなべて連れ立ち冬い 没り陽 [立冬]
愚聴風短編掌説「あかね茜モノローグ」冒頭句 皓(しろ)き肱(かひな)を あかねに染めて没(い)り陽熄(や)む
弦楽の熄(や)めば寂寞霜の闇
知らずして師走しぐれて思案果て
大雪と雖も錦繍(にしき) 褪めやらず [大雪]
K夫人葬送、とき恰も大雪 大雪の西風(にし)に寄せたり浄土の灯
しぐれ来て果てなむ想ひいま止まず
寅年歳旦二句 とらわれのおもひ果てなむ去年今年(こぞことし)
とらわれの無きにしかずと去年今年
なにやらか黄花にほひて寒に入る [小寒] 《蠟梅のかをりほのか》
気の冴へて光にみゆる春の彩
青 春
定家(さだいえ)を遙かに想ふ はるの月 [立春]
ゆきこほり春立つけふの風や融く
寒桜にほひただよふうす闇に [啓蟄] 秘そと佇てるはうた詠みしひと
汎美展二句 はる疾風(はやて)汎(ひろ)ふ 美(むま)しふ吹き去りて
汎(ひろ)き美をはるに重ねてかぜ去りぬ
脱ぎ捨てし肌着に残る冬のあと
はなひらを渦潮にして疾風(はやて)過ぐ
はなひらのひらひら舞ひて猫の昼
浦河奈々氏歌集「マトリョーシカ」に触発 奈々なるは如何なちふさをもちたるや 想ひて触れむわが熱きむね 《浦河奈々氏「クラナッハの乳房かなしも母性と はをみなに具はる性にはあらず…」に触発されて》
咲き残る辛夷(こぶし)無惨や春更(ふ)ける [穀雨]
はる今宵一人しつかの泥を占め 《一人静か=早春の花、眉はきに似るので別名まゆはきそう」とも》
はるさめのしとしとしとと濡れそぼち
やまふきのほろりと散るやゆふまぐれ 《「やまぶきのほろほろ散るや瀧の音」翁蕉》
瓦斯漏(ガスも)れのにほひただよひ柃(さかき)咲く 《柃=ひさかき、花に生ガスのにほひあり》
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