春 秋 游 吟 09
風や解く蒼きこほりのしたたりて [立 春]
麦の色蒼さはつかに春の立つ
音の対照・「涅槃二句」 遠音(とほね)はるかさわめき近し涅槃南風(ねはんまぜ) 《涅槃会(ねはんえ)は釈迦入滅の法要、涅槃とは究極の悟りの界、俗界の生命を超え永遠の生命に生きる意》
韻(おと)なべて皓(しろ)に帰したり涅槃雪
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雨水(うすひ)とは薄氷にあらじ生き肌(はだへ) [雨 水] 《雨水は「二十四節気」の一つ、概ね二月十九日》
雨水なる やはき肌のにほひ立ち
春一番無限遠なる韻の浪
地平線に韻(おと)さわめきて南風(まぜ)の晝
春愁や汎美齎(もたら)す赫(あか)きゆめ [啓 蟄]
はなあんず蕾果てなる南風(まぜ)の韻
はな杏ぼた雪のごとわが肩辺(かたへ)
梅若と地震(なゐ)や哀しき弥生盡 《「なゐ」は地震の古語。東日本大震災の哀しさ、時あたかも謡曲「隅田川」の梅若忌》
気怠さや貝母(ばいも)しつかに影を曳き 《「貝母」百合科・茶花の一》
岳父白寿にて逝く二句 岳父あはれみ逝き覚悟の弥生盡 合掌 《岳父とは一般に妻の父。》
清明や岳父遺せし盤(CD)哀し 合掌 [清 明]
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福島・原子力発電危機三句 原発の塵に戦(をのの)く春北風(はるならひ)
春塵は核のおののき風寒し
風流の意味をたがへて花のあめ
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桜蘂(さくらしべ)蝟集(いしゅう)もどきに穀雨ふり [穀 雨]
あなたへのオマージュ、あなたを桜蘂にたとへて五句 桜蘂密(ひそ)とやどすや紅の彩(いろ)
さくらしべ紅仄(ほの)かなりはなのあと
桜蘂なほ残したりはなのいろ
さくらしべなほうすべにを秘めたるや
うすへにの彩(いろ)を残して蘂のあめ
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Τ・Κ様、Ν・Τ様に晩柑賜りて二句 晩柑の汁に言寄せ春おぼろ
晩柑におもひ今宵の朧月
二〇一一年立春より穀雨までの 手紙挨拶句を主として、若干 自由吟を加えたものです。
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