春 秋 游 吟 11
霽(は)れ久々 巴乱(はらん)の黄蝶萩のかぜ [白 露]
白露ひかる葉月残しの蝉しぐれ
遠近(をちこち)に蝉のしぐれやゆめうつつ
露むすぶ「夏の名残の薔薇」何処 《夏の名残の薔薇=The last rose of summer=邦訳「庭の千草」》
秋旱(あきひでり)かぜの狭間の疎(うと)ましき
秋冷や懐かしき積雲(くも)往(い)にし夏
西風や名残の夏を断裁す
七十瀬(ななとせ)も夢まぼろしか蟲すだく
秋寒(あきさむ)に萎(な)へるこころや蟲すだく
死と生と・あめ彼岸四句 死の予感 秘めて幽かに秋のあめ [秋 分]
歿(し)のにほひ流しまほしと秋のあめ 《歿(し)=水の渦の中に消える。「歹」は骨の意。》
秋彼岸あまき腐臭の此岸雨(しがんあめ) 《彼岸は生死を超越した悟りの境地、し 此岸はこの世。》
薫香を打ち消しがてに秋のあめ
蔦葛二句 蔓草の穂先を充つるあきのいろ [寒 露]
没(い)り陽影なまめきさまや蔓のあき
つひの蝶二句 つひの蝶神智の楽に終(つひ)の舞ひ 《スクリャービン「嬰ニ短調練習曲」は凋落の舞ひに相応しい。神智とは彼の提唱した神智学、神秘派とも。》
雨音止まず きのふのつひの蝶いづく
◇ ◇ ◇
雨しとゞ雀入水(じゅすい)し蛤(はまぐり)に 《雀入水し蛤=支那において二十四節気を各々一候、二候、三候と分け、言葉を付した。寒露の二候に「爵(すずめ)入大水為蛤」とある。なんと素敵なイメージ。》
闇しじま淡きにほひや木犀忌 《木犀忌=遙か昔、母は木犀咲く日の旅立ちだった。》
いつの間に田五加木(たうこぎ)咲きて多摩の土手
皓(しろ)の季(とき)圏積雲と葛裏葉 《皓=輝く白の意。圏積雲=巻積雲。鰯雲、鱗雲。一万メートル前後の雲で全てが氷晶である。》
森閑と無韻に深かむ秋の闇
鵯(ひよ)の昼赤味に惺(しづ)む陽の光 [霜 降] 《惺(しづ)む=心澄みて落ち着く。芭蕉翁「野ざらしや心に風の入(し)む身かな」野ざらし紀行本句取り。》
虫啼かず心に風の沁む夕(ゆふべ)
白秋や紅葉焚くごと牧の水 《北原白秋、尾崎紅葉、大野林火、若山牧水、皆忌日秋にて候。》
那須温泉旅情・落ち葉四句 降る落ち葉 一葉(ひとは)に含む那須の彩(いろ) 温泉(ゆ)のをみな落ち葉降るふる那須の宵
那須の温泉(ゆ)や皓(しろ)きをみなに落ち葉降り
温泉(ゆ)のをみなしろき肌へに浮く落ち葉
立冬四句 蔦紅葉奔(はし)るさきあり昼の月 [立 冬]
夜半のあめ実(み)のむらさきを洗ひたり 《実のむらさき=植物名「むらさきしきぶ」》
蔦落ち葉に覩(み)しはほとけの丹(あか)き脣(くち) 《覩(み)る=明らかに理解して観るの意。》 《脣(くち)=柔らかく震える唇。》
冬立ちて瞑(くら)きわが身に氷雨降る
信濃追分錦秋四句 凩(こがらし)や幻夢童女の墓ふるへ 《信濃追分泉洞寺にゐます「泡雲幻夢童女墓」どんなをみなであったかあはれを誘う。凩に童女震え…。》
高原(たかはら)の童女が墓石(いし)に落ち葉降り
凩(こがらし)や遊女が墓石(いし)は口紅色(べに)に染む
遊女が墓所(ぼしょ)そなたのみ脚霜に焼け 《伝説の遊女の墓に、かの遊女裸足で佇ちて霜焼けの脚あはれ。吉野太夫伝説。》
◇ ◇ ◇
日輪の霞む在(あ)り処(か)や冬紅葉
立冬三候二句 有磯海(ありそうみ)に 佇(たち)て雉(きぎす)の入水(じゅすい)待つ 《古代シナにて立冬三候に「雉入大水化蜃」とある。蜃は大蛤(おおはまぐり)。》
蜃気楼に雉(きぎす)の入水(じゅすい)観(み)る夕べ 《蜃気楼=海中の蜃(大蛤)が空中に吹き出す息に映ずる風景。小生絵画制作の継続的テーマでもある。》
冬鳥三句 冬鳥(ふゆとり)の塒(ねぐら)いづくやかぜ亘(わた)る
冬鳥を塒(ねぐら)へさそふ風の条(すじ)
冬鳥を乗せるかぜあり夕陽熄(や)む
T・U様個展礼状に かへし 赤松の根張り豊かに小雪舞ひ [小 雪]
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