愚聴風 憂多寄瀬 2
彩(いろどり)をうち消しがてに冬の雨
鬱々と想いごちなる嵯峨時雨
もみじはに いてふを手織る冬疾風(はやて)
過ぎし日を想う媼(おうな)に夏陽降る
信 州 夏(なつ)陽(ひ)降る小田井の宿の姫の跡
長 州 すすき野や ながめ果てなる風の筋
瑠璃光に石蕗の耀ふ細き径
春愁や懐(おも)い果てなる雲の彩(いろ)
熊 本 ひのくにに ひろごる巻積雲(くも)の秋疾(はや)し
うらうらと四十路華やぐ江戸の秋
偕老や穴同じふにして合歓(ねむ)の花 (偕老洞穴)
箱 根 篁(たかむら)に雫冷たし秋の雨
秋鷺の一羽二羽ともありぬべし
木瓜咲くや聴風酔いを恃(たの)むべく
汎美展 緑雨なす館(かん)を染めたる赤き彩(いろ)
箱根湯本 風条や時雨の茶やに石蕗(つわ)の花
柿賜りて 庄内の柿の汁より冬来たる
熟れ柿の雫に纏う冬の影
熟れ柿の汁を流して冬了える
一粒の柿の雫に冬籠もる
凩の音の染めたる柿の汁
風婦人去りて寂寞(じゃくまく)五月闇
青風(かぜ)しばし熄(や)みたる後の虚ろなる
春愁と いひてときめき冬ふかむ
沈丁(じんちやう)のそこはかとなし春の闇
春寒(はるさむ)を残して花の雲はるか
懺悔
梅雨の碧空(そら)われに懺悔のおほかりき
凌霄花(のふぜん)の朱(あけ)に懺悔のいろや濃し
風一陣 烈夏貫く秋の彩(いろ)
晩秋
幾筋か風の糸曳き秋ふかむ
風の糸 曳くいくすじか暮れの秋
枯れ菊に温(あつ)きものあり秋ふかむ
春愁の此處に在りやと小糠雨
青葉して瑣事に事寄す宵の雨
坪庭の風飄々と竹の秋
うす墨や脚に纏(まと)わる梅雨湿り
薄暑来たり おみなご肩のあらはなる
降る雨の温みも待たず夏了える
冬
落ち葉して撚れたる蔓に冬籠もる
霜枯れの蔓に何をかとどめたる
凩の おとに応へる椀の汁
日短し干物に想ふ燗の酒
凩や漬け大根の陽のにほい
はるを待つ
大寒や虚空遙かにはるのいろ 《春の語源は、芽が「張る」だったといはれる。》
風一陣はな待つ月の朧なる
虚空(おほぞら)は ただよふ香にぞ月霞む
立春
樹々の芽のやや羞花(しふか)して日脚伸ぶ
歳末いろは歌 仮生越(けふこえ)てうま美き夢見しえ 酔ひもせす
歳 旦 句 干支読み込み
申年 来る年をサルおのこに似せてまつの風
酉年 わが想ひトリとどめずや春の風
丑年 ウシ(憂し)ものと思う我が身や去年今年(こぞことし)
卯年 想い馳す脱兎の風や径の筋
辰年 嫋々と春タツ今日の風尽きず
巳年 六十路とて身(巳)の一つだにおさめ得ず
午年 午年や ウマい話のあるでなし 午年やウマし(美し)夢見とまつ(松)のうち
未年 去年今年(こぞことし)覚めざる愛の夢未だ 未だ夢覚めずさまよふ春今宵 去年今年ウメエ(梅枝)話をマツダケ(松竹)と
申年 急がザル 争わザルと虚仮(こけ)のサル 急が申 争わ申と 虚仮の申〔三申〕
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