春 秋 游 吟 23
2014年立夏より夏至まで 立夏 寒き立夏、異常気象。 春の花に夏立つ今日のかぜさむし
艮(うしとら)のかぜに戸たてて春の逝く 〈艮=北東方向〉
夏立てど更衣(ころもがへ)もなし寒戻る
田平子(たびらこ)の花穂(くゎすい)を揺する夏の西風(にし) 〈田平子=春の七草・仏の座、菊科の黄色集散花序〉
幼日(おさなひ)の梅雨にことよす庭石菖 多摩川(たま)の微風にゆすらふすがた
捩摺草(もぢずり)の紅そよぎたりしろき肩 〈捩摺草=花穂がねじれているので、ねじばなとも。「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆへに:」があり〉
房州・仁右衛門島行き 夏陽ふる 津島祠(ほこら)の濱簪(はまかざし) 〈津島神社=素戔嗚尊に牛頭大王が習合、疫病伏せのご神体〉 〈濱簪=はまかんざし。アルメリア。簪のようなピンクの小花。この村のをとめごの健やかな成長を濱簪に託しての祈りだろう〉
荒磯海(ありそうみ)のかぜにをののく濱大根(はまだいこ)
安房つをみなのあつきむねのひ
「濱昼顔」
はつなつの 熱き砂地に 横たはり うすべにいろの 花ひらく 濱晝顔のあですがた されども熱き吾が胸に 咲けるはななし 晝顔の いづくあらずや うみどりの ただよふすがた おもい馳せ 安房つ碧落
濱晝顔摘まず夏陽の七燿(ななひかり) 〈濱昼顔摘まず=この花を摘むと雨になると言ういにしえの伝説による〉
小満 風さやぐ さやさやささと竹の秋
忍冬はひと肌の香といろめきぬ 〈忍冬=すいかずら。花に芳醇な香りー中年婦人だろうかーがあり、枝は蔓状に伸びる樹木〉
忍冬にひと懐かしむゆふまぐれ
幻惑の「変ホ長」たる狐の手袋(ジギタリス)
狐の手袋(ジギタリス)ゆすらふすがた幻惑の
フュルステナウと横笛の韻(おと) 〈フュルステナウ=十九世紀前半のフルート奏者。父・子共ヴィルトオーゾ。作曲家。ジギタリスに蝶の舞うイメージを想うのである〉
T・∪氏画集、米寿出版を言祝ぐ たぶろおを積みて豊穣 米(よね)蒔く日
多摩河原の犬(いぬ)薺(なずな)可憐二句・一首 多摩河原 いぬなづな咲きひとを恋ふ 〈牧水賛「多摩川の砂にたんぽぽ咲くころはわれにもおもふひとのあれかし」二子玉川・兵庫島句碑〉 〈いぬなづな=ペンペン草の黄花版とでも思われる、濃い黄色集散花序〉
いぬなづな風に震はばおもふひと
いぬなづな その黄艶めき多摩河原 われはかなしもままならぬひと
蒲公英の絮(わた)いづくにや風の果て
駿河台へ女男(めを)の石段梅雨晴れ間
峠路は煙霧深閑つゆさむし 〈峠路=旧碓氷峠〉
芒種 麦秋やその黄におもふひともなし
羊蹄(ぎしぎし)の玄(くろ)き種子より積乱雲(くも)の湧く 〈羊蹄(ぎしぎし)=たで科多年草。黒褐色の種子〉
白鷺は哀しからずや空のあを 川苔(こけ)のあをにも染まず佇む 〈若山牧水に「しらとりは哀しからずや 空のあを海のあをにも染まずただよふ」がある〉
夏至 上州・藤岡・ソネット 「鮎川に沿ひて」
皀莢(さいかち)しげり 赤花さひて かぜわたる 寂しきながれ その名麗し 鮎川とふ 西上州の連山 はるかなり あれは みずのおとか風韻(かざおと)か 梅雨晴れ間の 昼下がり しばし囁け あがこころに 〈鮎川=西上州山域に発し、藤岡市を経て鏑川にそそぎ、やがて利根川に合流する中級河川。情緒纏綿たり〉
上州・藤岡の鮎川 鮎川にあかばなゆれて野の窮(きは)み
鮎川や河原藜(かはらあかざ)のさびしき穂
皀莢(さいかち)の茂りふりわけみづ流る 〈皀莢=さいかち。豆科の蕎木で初夏に緑色の総状花序を付ける〉
|