春 秋 游 吟 24
2014年小暑より秋分まで 小暑 立葵(たちあふひ)の咲き騰(のぼ)りたる果ての碧
炎天熾烈 草木なべて突き通す
はな花魁草(おいらん) 戀に憑かれし玄揚羽蝶(くろあげは)
玄揚羽蝶(くろあげは) 恋の飛跡や鬼百合(ゆり)の朱(あか)
朋、六十年ぶりの来訪 梅雨明空(つあけそら) 六十年(むそとせ)ひさし朋が貌(かほ)
大暑 凌霄花(のうぜん)の朱(あけ)に添ひたる梅雨明蒼天(つあけぞら) 〈凌霄花=のうぜんかずら。夏に大形朱赤色のロート状花を付ける落葉木本〉
旧友の小説出版を言祝ぐ ともがきの藝に欽羨(きんせん)つゆ明ける
いにし世の絵に隠れ栖む魂魄(たま)が彩(いろ) 〈プラド美術館ガイドブック〉
上州鎌原、天明年間浅間山噴火の惨 淺間押し(やまおし)の魂(たま)の栖(すみか)や夏猛る
四百人(よもひと)の魂魄(たま)へいさなふ夏のかぜ
四七七人(しななと)を吞みて寂寞なつのか
烈日や鎌原かなし鉦(かね)亘る
朱夏爛漫鎌原閑(しづ)か鉦(かね)と風
邨皓暑(むらかうしよ)鉦(かね)にめざめむ霊(たま)あまた 〈邨=村と同、皓=輝く白の意〉
嫗(おうな)うたふ和讃糸曳く鉦(かね)のおと
鎌原の皓暑猛りて魂魄(たま)しづむ
たかはらや巻積雲の皓(しろ)の果て 〈巻積雲=高度六千~一万米、全てが氷晶。一般には鰯雲・鯖雲〉
立秋 ややあれば風吹き抜けて秋兆す
上州・神流川五句 月見草さびしき川に黄を添へて
皀莢(さいかち)や神流川(かんな)の流れ韻(おと)止まず
待宵草(まつよひ)を目にして怒りしづまらず 〈怒り=再び歯の破壊と痛み〉
川の音に消え去りまほし秋はじめ
己とはみにくきものや枯れ藜(あかざ)
木天蓼(またたび)の蟲癭(ちゆうえい)の吾に怒り射す 〈蟲癭=虫こぶ。木天蓼の実が虫によって見にくく変形〉
秋色は愁色であらんとわれを擲(う)つ
この激怒何にぶつけむ枯れ萱草
あくがれはおのれ傷めし秋霖雨
自虐とふ言(こと)へゆめよす吾亦紅
われよりも非道き災もあり秋天災 〈関西に土砂災害、異常気象〉
秋陽(ひ)のいのち吸ひてややあり怒り熄(や)む
処暑 浅間山麓晩夏より初秋へ 甘(かん)藍(らん)一面地平線果つ鰯雲 〈甘藍=キャベツ。高原野菜として栽培〉
季(とき)ふたつ出あひて秋の雲迅(はや)し
地平線の果ては如何なり蕎麦の花
蕎麦しろし浅間は青しわれ寂し
蕎麦畑の白に黄蝶や終(つひ)の舞ひ
西風(にし)寂寞 地蔵が原の晝の夢 〈地蔵が原=浅間山南麓に広がる、乾性化されつつある大湿原〉
地蔵が原積雲残す晩(く)れ夏陽
淺間颪に喜寿抗(あらが)ひてわれは佇つ
鰯雲を「癒やし雲」とふ荘の窓
白露 皓き陽もややに赤みて露しろし
蔓草の繁りすごみて夏了へる
コスモスを土産に嫗(おうな) 旅の帰途
おみな睡る手にコスモスの旅土産
仲秋(あき)の旅おみなのなかや玄(くろ)二点 〈玄二点=気づくと旅の集団に男二人、「万緑叢中紅一点」王安石(北宋の学者・詩人・政治家)の引用〉
もつれ舞ふ秋蝶二葉多摩川(たま)眞晝
秋分 多摩川(たま)蕩蕩 終(つひ)の黄蝶の縺(もつ)れあひ
果てしなし秋天(そら)の碧さに韻(おと)を視る
秋霄(そら)の碧の深みに想ひ果つ
只管(ひたすら)に碧空(そら)へ向かひて言葉なし
行く雲と多摩川(たま)の流水(るすひ)に秋ふかむ
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