春 秋 游 吟 25
2014年寒露より2015年大寒まで 大寒 あまやかな葡萄の露に寒のいろ
月蝕・神無月八日〉 あかつきや直截に引く地平線
蝕月の小豆鼠色(あづきねずみ)に風さわぐ 〈小豆鼠色=暗赤色がかった灰色。風騒ぐは不安の胸騒ぎを風に託した〉
団栗や静寂(しじま)つつみて甃(いし)を打つ 〈甃(いし)=敷石、しきがわら〉
鈍(にび)いろに暮れてなお打つ韻たしか 〈鈍(にび)いろ=暗灰色。その染料は団栗から採る〉
かぜ震う枯れ穂さみしき多摩川堤(たまつつみ)
泡立草を真横に擲(う)ちて夕日影
みづ滔々碧に染まらず終の蝶
露さむし遠音を分けてみづの往く
霜降 八甲田山逍遙 黄に朱(あけ)に雅びの美なる山毛欅(ぶな)の山
峯桜屈曲(まがり)が幹に晩秋(あき)のかぜ
峯桜八甲田颪に身をかがむ
あはれ一入 萢(やち)に残れる枯れ薊 〈萢=高層湿原〉
萢(やち)の風にあはれを視しか枯れ薊
雨雲に黄紅葉(きもみぢ)浮きし萢(やち)の夢
山毛欅黄葉(ぶなもみぢ) 泛(う)かべて疾し瀬も時も
山毛欅(ぶな)落ち葉濡れてしとどにやはらかき
黄に朱(あけ)に木の葉を巻ひて瀬をはやみ
水面(みなも)打つ瓢箪沼の晩秋(あき)しぐれ
山毛欅(ぶな)落ち葉しとど濡らして晩秋(あき)のあめ
山毛欅(ぶな)やまに「生」幾(いく)許(ばく)ぞ晩秋(あき)のあめ
橅橅橅橅橅 山毛欅黄葉(ぶなもみぢ)阿修羅の声にほろと散り 〈阿修羅=奥入瀬渓谷の名所・阿修羅の瀬〉
山毛欅黄葉(ぶなもみぢ)「阿修羅」轟々みづ滔々
「石ヶ戸(いしけど)」に阿修羅棲みたり晩秋(あき)しぐれ 〈石ヶ戸=巨石信仰の大岩〉
山毛欅葉(ぶなは)濡れ「寒水澤」にあきのあめ 〈寒水澤=八甲田山荘のある沢筋を寒水沢という〉
黄と朱(あけ)を怒りもて蒔けぶなもみぢ
撫黄葉(ぶなもみぢ)うす鈍(にび)に染め沼のあめ橅橅橅橅 〈うす鈍=うすにび色、薄い灰色〉
やがて閉ざす雪の予感か黄葉(もみぢ)燃ゆ
風音に瀬韻を併せ黄葉(もみぢ)降る
枯れ待つ宵 終(つひ)の黄蝶を華と視し 〈枯れ待つ宵=荒れ地待つ宵、俗に「月見草」〉
嫁菜孤愁三句 はな嫁菜何故にひとつと咲きにけり
咲き残るよめ菜孤高にあはれかし
枯れよめな 枯れ待つ宵と風を待ち
山毛欅山(ぶなやま)や「色葉匂へと散りぬるを」
目交ひ(まなかひ)の蔦蔓揺れて冬隣り
立冬 蔦葛を西風(にし)吹き抜けて冬立つ日
いちゐの実その朱におもふひとの唇(くち)
突然に銀座を潤ふ晝時雨
櫻紅葉 輪廻の生や朱一葉(あけひとは)
烏瓜下がる眞直(ますぐ)に夕茜
朔風の心なきさま葉を払ひ 〈朔風=北風。二十四節気・小雪七十二候の一候に「朔風葉を払ふ」とある。柞(ははそ)=楢・櫟の古語〉
小雪 葛(かづら)ぐさ いよよ目立ちて柞(ははそ)ふる
柞葉(ははそは)や西風(にし)の飛跡を如何に描く
擬態語(おのまとぺ)二句 杏黄葉弦楽の音にほろほろと 〈この日、維納(ウィーン)世紀末・ツェムリンスキのcdディスク購入。「世紀末」と「落葉」の心情一致。彼はシェーンベルクの師〉
鵯(ひよ)触らばはらはらはらと黄葉降る
花八つ手ひそと秘め咲く墓のかげ
冬(ふゆ)萌(もえ)か露のひかりか雨後没(い)り陽
斉(ひと)しからじ いのち枯葉の如きもの
榾(ほた)朽ちて吾の生きしかた如何ばかり 〈榾(ほた)=樹木や根の切れ端。倒れ朽ちた樹木。薪〉
K氏へ喪中の書信返句、薫香に添へて せめてもの薫香(かう)まとはせよ忘れ独楽
東銀座情緒 来し方へ昭和通りの夕時雨 〈昭和通りと言う言葉に懐旧の情念〉
未年歳旦句 未だ醒めず浪漫の夢や初茜
大雪 季(とき)迅し のこりの石蕗(つは)に想ふもの 〈石蕗=つわぶき、つわとも〉
杣の真似事二句 杣事の大(お)鋸(が)屑(くず)の香や かげながし 〈かげ=影に「嗅げ」の意をかけて〉
檜(ひ)葉(ば)剪(き)らば かをりの包む晝寒月 〈檜葉=ひのき科の庭木、ヒノキチオールという香気を発する〉
彫られたる生き様の痕 冬の柚子
寒菅や吾がこころ根の繊(ほそ)き莖
冬至 寂寞たり花枇杷ここに宵のあめ
潦(にはたづみ)陽の来復に閃きぬ 〈陽の来復=一陽来復は冬至のこと。陰が陽に替わる日。(易経)〉
寒林二句 寒林やかげむらさきの乱れ縞
築(つき)山(やま)に寒林うつすみだれかげ
行く雲や「空即是色」冬の水 〈行く雲と流水は世の流れ、「雲水(僧)」の語源〉
梅剪らば蕾いまだに処女のごと
行き逝くは伸びる日脚の茜雲 〈行き逝く=行きは移動、逝くは消えてゆく〉
小晦日(こつごもり) あを笹の色あさやかに冬の泥
万両や その実深紅に歳の明け
小寒 K・W様に元旦搾りの銘酒賜り 想ひ遙か歳旦搾りの酒の酔(ゑ)ひ
望(もち)の月 寒林梢揺るぎなし
M・I様、弟様・彫刻家の喪の知らせに 遺されし作に燻(くゆ)らせ寒の薫香(かう)
陽のぬくみ背中(せな)に孕みて寒の猫
大寒や虚空(そら)漆黒に澄みわたる
大寒 寒林のむらさきだちたる彩いまだ 〈「春は曙・・・山際少しあかりて紫だちたる雲の・・」(枕草子)梢の紫も未だ〉
日だまりに寒野罌粟(のげし)咲き春兆す 〈睦月末八日、春の野罌粟開花、お茶の水土手〉
春兆す 追儺(ついな)の鬼やいま何處
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