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青 春
陽ぬくし 追儺(ついな)の豆に雪のみず たつ春や鬼神の泪ままならず (立春) 春立ちて甘き菓も佳し小虫舞ふ 利休忌や 酒器有り体(ありてい)に重きこと 薄氷(うすらひ)を割りて雨水(うすゐ)や昼の月 薄氷(うすらひ)に恥じらひを重ね雨水来る むらさきに 梢を染めて涅槃西風(ねはんにし) 何となし はなのにほひの夕まぐれ 星霜の速やかなるや はなの跡 風雨熄(や)み 華蔓草(けまん)の容(かたち)ととのへり 汎き美に想念(おもひ)を込めてはなのあめ (汎美展) はな杏 何で朧の月を負ふ 啓蟄を待てず飛び出し翅(はね)の虫 樹々の芽のやや恥ぢらひて日脚伸ぶ 春昼や羽音一瞬 閑をみし 薄闇や仄かにかほる春のあめ ややありて濡れ猫かへるはなのあめ 碧空(あをぞら)をうつしていぬのふぐりかな 落ちつばき 事後の貌(かんばせ)留めたり 愚聴風風邪をひきて はるかぜを うけてわが身のせき(咳・堰)淀み やまひ癒へて たをやに吹かむ春の風 蘭萌へて薹になぞらふ墨のゆれ 破瓜のごと 河津桜の咲き初めて 伊豆の山 かはづさくらを買ひしひと ひなげしや けなげにさける 甃狭間(いしはざま) 無惨なり 南風(まぜ)一陣の罌粟坊主 山吹や 春愁忘る夕陽影 はなかげを うれひに染めて雨しづか 愚に相応し「万愚節」とはよく言ひて (四月馬鹿) 星霜のはや幾許(いくばく)ぞ はなのあと 彩(いろど)りの青丹うつして はなのあめ 風一陣 日影しらみて山笑ふ 玻璃にうつす はな打つあめのおと閑(しづ)か 杉粉塵 梢の風と吹き抜けり わが肩に みづきの花のこぼれしを 蘂(さくらしべ) 尻尾の向きの定まらず 卯の花を腐(くた)せど風のなほ寒し 春愁の翳(かげ)に霞すめる下弦月 立浪草 北斎が浪はるかなり 桜蘂ながれのままにあめ閑(しつ)か こつこつと ヒールの跫(おと)や蘂(しべ)のあめ 二の腕のたるみのうへのささ侘びに 悶へいつる歳になりにけるかも……(持統天皇パロディ) 桜蘂(さくらしべ)流れ果てなむよひのあめ 桜蘂 あめのながれを示したり 桜蘂 寂寞としてみずに沿ひ 桜蘂 あめに懺悔の刻をうつ 桜蘂あつめてよひのあめ閑か 桜蘂流れたあめの条にそひ 雨ひととき桜の蘂が刻(とき)を打つ 朱 夏 薫風や さ枝を亘る条(すじ)を見せ [立夏] 中ツ瀬の津に鳴けはるか子規(ほととぎす) やまひ癒へて 麦酒にほふや麦の秋 日輪(ひ)あかし唇(くちびる)赫し梅雨旱(つゆひでり) つ入りして こころの奧処しめるとき をみなごの肩うすくして梅雨湿り 梅雨闇に水面(みなも)くつれて夢たける [芒種] 夏いまだ きのふの画彩定まらず 夏かぜは風知草(かぜくさ)にあり多摩さやか あまおとの過ぎて寂寞(じゃくまく)枇杷の闇 はかなくて想ひ鬱々梅雨湿り 梅雨明(つあけ)未(いま)だ 葵(あふひ)へ繋ぐ麦のいろ [夏至] 二の腕のたるみ愛(かな)しや梅雨あける 夏風は風知草(かぜくさ)にあり 画彩溶く 風はこぶにほひ清(さや)かに土用干し 秘めごとの 蜜にものおもふ桃の汁 [大暑] 水蜜を風吹き抜けて梅雨明ける 佐久の天(そら) 覚めて晩夏の碧(あを)をみる 風熄(や)みて炎天一刻微動せず 炎天一刻 赫き花皆突き通し 炎天の静寂(しじま)分かちてかぜの面 わが制作(さく)の彩(いろどり)染めよ佐久の碧空(そら) 臍・乳房きみらのなべて恐ろしき 白 秋 風草にかぜうつるらし 処暑了へぬ [処暑] 萩山の ははそ林の萩しろし (ははそ=柞、小楢の古語) 風知草(かぜくさ)に 露しろくして朱夏ゆきぬ [白露] かくありと肩にこぼるる風の秋 吹き抜ける風の冷たき秋旱(ひでり) 風草にかぜ孕(はら)むらし秋はしめ 風音の秋を呼ぶなりささ野菊 秋風の行方明るき陽をみたし 風音の山毛欅(ぶな)の葉にあり沼ひかる 俤(おもかげ)の紅き糸曳き吾亦紅(われもかう) 都美館の八十言祝ぎて(やそことほぎて)秋ふかむ 屈曲(まがり)たる蔓の軌跡や初の霜 [白露] 風韻(かざおと)にふかむうれひあり ささ野菊 かぜ草の風を呼ぶなり茜雲 蟋蟀(こほろぎ)の声さやかなり夢まくら 曼珠沙華古き参道示したり [秋分] 小糠雨火山灰地を鎮(しず)めけり わが想ひ託してひとへ秋の風 秋霖やひねもす猫の眠り哉 夕陽かげ含みて美(うま)し柿の汁 霖雨ながし われに愚妻も相手せず 霖雨ながし 猫も愚妻も相手せず 美柿(うまがき)の雫にうつる茜雲 [霜降] 枯れ蔦の紆余曲折を諾(うべな)ひぬ 枯れ蔦の先鋒(さき)の在処(ありか)を定めたり 枯れ蔦を先鋒(さき)へ辿れば昼の月 烏瓜の紅(くれなゐ)揺れず夕陽没(お)ち 烏瓜夕陽含みて微動せず 落ち葉掻き その音にかへる現(うつつ)どき 秋深み生命(いのち)ありてやかぜのおと 榾火(ほたび)とふ こと懐かしや山眠る 刎頸のきみありてこそ秋風(かぜ)さやか 風韻(かざおと)にふかむうれひありささ野菊 末枯(うらが)れの南瓜をともすゆふひかげ 彩(いろどり)のふかみかそけくしぐれ降る 高積雲(ひつじぐも) 夏幻想の旅の果て 蔦紅葉 水平打ちの夕陽影 玄 冬 おのれ孤愁 凍蝶(いててふ)の舞ひかぜのまに [立冬] 日短し干物に想ふ燗の酒 枯れ蔦や碧空玻璃(へきくうはり)の韻(おと)に充つ 賜りし吟醸が香に冬ふかむ 昼もなほ しぐれて暝(くら)しわがうれひ あらたまの寝ず見の夢にときめきて [子年歳旦] 雲脚の影迅くして寒に入る [小寒] 大寒や雲一片に春兆し [大寒] 大寒の虚空に小虫舞ふは夢 大寒や虚空(そら)灰色にして木瓜(ぼけ)のはな 凩(こがらし)や漬け大根の陽のにほひ 餘寒一入(ひとしほ) 聴く音なべてこほりたり 凩や椀に吸い入る汁の音 凩に運び来てよとひとのふみ 肌寒を癒すひとだにあるでなし 黒潮のかほりに添へる寒(燗)の宵(酔ひ) 燗酒(かん)あつし 風そのままに日脚伸ぶ 枯蔦に想ひあまりの月冴へる ほたていま春立つ風に踊りたる 閲覧回数: 1838
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