手渡し「はいどうぞ」の贈り物
ここは保育園の中にある一時保育室です。1歳児と2歳児が同居している縦割り空間です。毎日登園してくる子どもさんの顔ぶれが変わります。一週間に一回登園のお子さんもいれば、週に3回登園しているお子さんもいます。保育室や保育担当者(職員)との慣れ具合もまちまちです。一泣きもせず、ワクワクと登園してくる子もいれば、大泣きする子もいれば、きょとんとしている子もいます。
子どもが、登園し母との別れで泣いているとき、ここはどこだろう(?)という感じでキョトンとしているとき、遊びを見つけ出す前の暇そうにぼうっとひているとき、おもちゃの取り合いで、おもちゃを取られてかなしい・くやしいと泣いているとき、いろいろな場面で私は「はいどうぞ」と何か見繕って手渡しします。そのことで気が紛れたり、ちょっとした気分転換になったり、狭くなっていた心持がちょっぴり広くなったりします。「さあ、あそぼっか」といざないます。
1歳の子どもさんが最近覚えた「どうぞ」で、私におもちゃを手渡してくれる時、気持ちを込めて『ありがとう』と受け取ります。そして、それをまたその子に「はいどうぞ」と手渡します。その子も「ありがとう」のしぐさをかえしてくれます。ささやかなやり取りですが実になごやかでいいもんです。
積み木の箱を前に、一つ一つ取り出しては、ポイ、ポイ、ぽいっ…とあそんでいます。みごとな散らかしっぷりです。箱の中はとうとうからっぽです。そうかと思うと、箱をひっくり返して中身を丸ごと一気にぶちまけるあそび方の子どもさんもいます。ちらかし界の横綱です。
「さあ、おもちゃを片付けておちゃ(水分補給)をのみましょう」とよびかけます。♪おかたづけ♪、の歌なんて歌いません。片づけた先に何が自分たちを待っているのかという見通しを示して子どもさんが納得してかたづけられる生活感覚を大事にしたいと思っています。 教育の最終目標が自己教育にあるのと同様に、『しつけ』を大人が子どもさんに押し付けるのではなくて、子供の心の内側に芽吹いてくる生活感覚こそが自分で自分をしつけていくのです。
片付けに興味を持ちだした子どもたちがそばに寄ってきます。丁寧に戻す子。大胆にポイ、ポイっとワイルドに入れる子。自分こそが入れたいと一つのおもちゃを二人で取り合いになるとき、形勢の不利な子のほうに、あるいは無理やりに取ろうとしている子のほうに「はいどうぞ」と同類の別のおもちゃを手渡します。
あいさつ代わりに「タッチ」といって手のひらと手のひらを合わせます。私は手のひらを大きく広げて待ち受けます。子どもさんが「タッチ」といいながら触れてきます。手を合わせられてにんまりと満足げに微笑みを返してくれます。これもまた「はいどうぞ」のすてきな贈り物です。ちょうちょうが花びらに触れるようなタッチもあれば、力強い目いっぱいのタッチもあれば、もっと高い位置にしてよとハイタッチをしたがるお子さんもいてタッチもいろいろです。
贈り物には贈り物効果というものがあるようで、人の心を和ませ、ちょっぴり幸せな心持にしてくれます。「はいどうぞ」は私の好きな贈り物(プレゼント)です。
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