はてな(?)のきめぜりふ
保育園の中の一時保育室です。 登園の仕方は一週間に3回通園する子もあれば2回の子もあれば1回の子といろいろです。 週1回のペースで来るお子さんの場合、たまたま何かの都合でその週をお休みすると次の再登園は2週間後ということになります。 毎日見ているのではないお子さんですから、その子に対しての理解に戸惑う場面があります。
今回登場するお子さんは「ちょっと待って子ちゃん」と言います。 保育士が他のお子さんと会話したりごっこをしたりなどしてあそんでいるとき、または他のお子さん同士が2~3人で何かのごっこをしているさなかに大声で「ちょっとまって!」と言葉を挟みます。 その声は時には宣言のようでもあり、時には命令のような緊迫感のある語調でもあり言葉のニュアンスとしては微細に変化も含んだ緊張感の高い声で言い放ちます。 いったいなにを「(ちょっと)まって」といっているのでしょうか。 『まって』といわれますのでちょっと待ってみます。 その後に続くであろう言葉に耳も心も傾け待ちます。 けれどもその続きの主張がありません。 表情やしぐさからも推測できそうなものが見当たりません。
敢えて「はい、待ちましたよ。なんでしょうか?」と次の言葉を促してみますと、照れくさそうにニヤニヤとするばかりです。 いったいどんな思いで「ちょっとまって」と言っているのでしょうか。
あそびの場面のその会話の世界の流れに掉さすのですから、保育士は何のことを言っているのだろうか、言いたいのだろうかとその意味世界を探ってみようとします。が掴めません、誠に不可解です。戸惑います。
会話のやり取りの前後などを振り返って何か思いあたる節があっただろうか?明らかなものはことさらに見当たりませんので、この「ちょっとまって」は意味のないセリフとしか思えません。自分に関心を引き寄せたいというシグナルでしょうか? 自宅で見ているアニメのビデオの中のお気に入りの主人公かだれかが名場面で発する決めゼリフなのでしょうか?その役柄になり切って叫んでいるのでしょうか? いろいろおもんぱかってみますが、どれも半信半疑で決定打にかけます。
昨日はたまたまお昼寝をしそびれた「ちょっと待って子ちゃん」と、その子よりの月例の高いおしゃまさんと二人して起きていましたから、体を休める時間を早めに切り上げて、布団から出て好きにあそべるようにスペースを作りました。 Dブロックを出してあげると、おしゃまさんはブロックではなく「紐通し」のおもちゃであそびたいとリクエストです。 おしゃまさんは「紐通し」とDブロックと両方を程よくあそびます。 「ちょっと待って子ちゃん」はひたすらDブロックで立体物を作っています。 その作り方は手馴れているようでスムーズです。 おしゃまさんはDブロックで作った作品を持ってきて「みてぇ、これディズニーのおしろなの」といいつつも保育士と会話していくうちにそれはバースデイケーキという見立てにかわります。 そのやり取りを見ていて遅まきながら「まって子ちゃん」も自分の作品を持ってきました。 『これ、なあに?』と問いかけますと「……」にやにやしているばかりで特定の言葉が返ってきません。保育士は内心「…?…」と戸惑います。
そうこうしているうちに午睡の眠りの足りた月齢の低い子が二人三人と起きてきて「いれて」「なかまにいれて」とあそびに混じってきます。 ブロックガチャガチャ、手も動きますが口も動きます。 にぎやかな女子会の様相が濃くなってきます。 「まって子ちゃん」よりも月齢の低い二人ですが、このところ富に言葉も増え、また言葉の使い方もどんどん巧みになってきている成長株です。 おしゃまさんとの会話のやり取りには拙いものがありますがそれでも見事なコミュニケーション、言葉のキャッチボールは通じ合っています。
この興味深い会話のやり取りを見聞きしていて「はっ」としたことがありました。
「まって子ちゃん」は会話に絡んでいません。 絡みたい欲求もことさらには看て取れません。 意思疎通をする道具としての意味のある言葉そのものを持ち合わせているようには見えませんでした。かまびすしい女子会の中で彼女の現段階での言葉のありようが一気に浮き彫りになりました。 けれどもいずれ近いうちにこのにぎやかな会話の渦の中に仲間入りする日がやってくるだろうことを思い描きつつ様子を見守りました。子どもさんの育ち方はそれぞれ10人10色。何がきっかけとなって、何がどんな風に積みあがっていくか、そのプロセスにつき合えることこそが保育の醍醐味です。丁寧に見て取っていきたいです。
4月から5か月近くたってしまいましたが、それならそれでいいじゃないか、もっとハグして、じゃれ合って、はしゃぎ合って、言葉も含めていっぱいあそんじゃおう、ここからのスタートをきることにします。
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