昨日20日の朝日新聞 夕刊に(評・美術)「鈴木其一 江戸琳派の旗手」展の記事が掲載されていましたので、紹介します。
(評・美術)「鈴木其一 江戸琳派の旗手」展 大きな朝顔、にじむ独創性 引用元:2016.9.21. 朝日新聞 夕刊
鈴木其一(きいつ)(1796~1858)の名を冠した個展は、これが3度目である。1度目は、1993年に板橋区立美術館で開催された「江戸琳派の鬼才 鈴木其一」展。琳派の末席に連なる存在としてしか認識されていなかった其一を顕彰しようとする意欲的な展覧会だったが、観客はまばらだった。
だが、江戸絵画ブームが沸騰している昨今、今回の展覧会には多くの観客が詰めかけるにちがいない。「若冲」展ほどではないにせよ。
ポスターでもメインビジュアルとなった「朝顔図屏風(びょうぶ)」(メトロポリタン美術館蔵)が、一番の主役=写真。この図版では実感できないだろうが、ともかく大きい。朝顔は実物大をはるかに凌(しの)ぐ大きさだ。
金地に緑の葉と群青の花。ということは、尾形光琳の「燕子花図屏風」(根津美術館蔵)を意識していることは明白である。だが、琳派の系譜に連なることを常に意識しつつ、其一は自分なりの「変換」をせずにはいられない画家である。この屏風の場合、誰も思いつかないような「大きさ」こそが、彼なりの「変換」だったのだと思う。
展覧会は、師である酒井抱一の作品から始まり、早逝した兄弟子・鈴木蠣潭(れいたん)の希少な作品も展示しつつ、其一作品を年代順に構成、息子の鈴木守一以降の系譜まで紹介するオーソドックスな構成。其一自筆の書状などの資料もふんだんに展示されて、この画家の全貌(ぜんぼう)を知るためにはまたとない機会である。
ところで、私が訪ねた内覧会当日、10月5日から展示される予定の「夏秋渓流図屏風」(根津美術館蔵)は見られなかった。実は、この屏風こそ、其一の本領を知るために最も重要な作品である。極端にフラットな、金、緑、青の色面。其一はこの作品において、自らの視覚体験を完璧に「変換」する作法を獲得したのだった。後期、この屏風と久しぶりに対面するために再訪しようと思った。
70年代、「夏秋渓流図屏風」を初めて紹介したのは、「奇想の系譜」の著者であり、私の師である辻惟雄氏だった。しばらく前、先生に「其一も奇想の系譜に入れていいですよね」と言ったら、先生は頷(うなず)いておられた。(山下裕二・美術史家)
▽「鈴木其一 江戸琳派の旗手」展 東京・六本木のサントリー美術館。10月30日まで、火曜休み。
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夏秋渓流図屏風 1
夏秋渓流図屏風 2