「戦いごっこやりたい」・・・今できることとできないことを伝える
保育園の中にある一時保育室です。毎回日々の保育の中で感じたささやかな感動をお伝えしています。
毎曜日登園してくる子どもさん方の顔触れが異なります。今年は登録しているお子さんの多くが女の子さんであるというのが特徴のようで、たいていの日は女の子が主流派で男の子がぽつんぽつんという曜日のほうが圧倒的に多いのです。 が、それでも月曜日だけは「マンデイボーイズデイ」で唯一男の子が大半で、女の子がぽつんぽつんという曜日なのです。今日は月曜日です。
いろいろなあそびがありますが、男の子はやはり『ヒーロー戦隊ごっこ』でそのキャラになり切って暴れあそびを好んで楽しむお子さんが圧倒的に多いです。湿度の高い日などはまるでサウナ室から出てきたのかと思わされるほどに汗ばんで嬉々とあそんでいます。
あそびとしての『戦いごっこ』に対しては保育界でも賛否両論百出の機運がありますが、私の立場・考え方の基本はこれを拒否するものではありません。 子犬や子猫やお山の熊の子も産まれ落ちたときの兄弟とレスリングあそびをしながら沢山のことどもを学んでいきます。自分の身体の使い方や身のこなし、相手に加える力加減の程、防御の受け身等々。その自然なあそびの姿の中に人間の子どもたちもお手本のように学べるものがあふれています。人間の子ども、とりわけ乳幼児期の子供たちはまだまだ「人間」になり切っていない人間以前の「野性を持った動物に近い段階」にあります。
若い大学生のお兄さんがバイトで入ってくれている日はあらかた彼がその『戦いごっこ』の相手をしてくれていますが、何かの都合でそのシフトに変更や微調整がかかると子どもさん方は私にヒール役を求めてきます。やはり誰か悪者とか悪役とか怪獣とかお化けとかがいないとヒーロー伝説は華々しさを欠いて味気ないものになります。個々ひとりひとりの子どもさん方の「力量」や「好み」や「怖がり加減」「無鉄砲加減」などを総合的に考慮しつつ、彼らのリクエストに応じてどんなキャラにもなります。 時には「ちょっとだけこわいかいじゅうになって」だとか「うんとおっかないお化けになって」など遊びの途中で微調整を加味しつつ悪役を演じます。悪役は結構面白いのです。
保育キャリア42年ですからいぶし銀の『わるものさま』の登場です。
加減を知らないわけですし加減の調整が上手にできない段階ですからこれを実践的に伝えるにはそのあそびの渦の中に参加しつつ「あーぁ、今のキック痛かったぞ」「痛すぎるのやだ~ぁ」「もっとうそんこでやってよね」と力の加減を伝えたり、かなりリアルに痛がったりいろいろ表現の粋を尽くします。時には、やられたのとほぼ同じくらいのインパクトを相手のお子さんにやり返して「ね、痛いでしょ。わかった?やりすぎよ」と実践的に伝えます。一回限りではそう簡単にわかる力加減の世界ではありませんから、そこは「反復練習」の修練の世界です。
今日も朝から午前中の大半は『戦いごっこ』です。ところが今日はバイトのお兄さんは途中でほかのクラスの保育の助っ人にシフトとなりました。 急遽のオファーを受けていぶし銀のワルモノサマの登場です。いつもと一味違う戦いごっこです。その余韻を引いています。 お給食が済んで午睡に入る前のひと時に彼らは『たたかいごっこ・パートⅡ』をやりたいのです。食事が済んだ直後ですし、入眠前にあまり興奮させすぎてはその後の生活づくりの塩梅が宜しくありません。 彼らの欲求を頭ごなしに全面否定はしたくないので難易度の高い提案を持ちかけました。 「静かにあばれられる?」提案しつつも無理だろうなと思いましたが「できる」とへんじ。 「じゃあ約束よ、うるさくなり過ぎたらおしまいにするよ、わかった?」「うん、わかった」 なんとその直後の数分間、実に見事(?)に静かにあばれています。やればやれるもんです。 とはいえまだ2~3歳の子どもたちです。だんだんエスカレート、してきます。無理もないことですがとうとう閾値を超えるほどのレベルとなりました。ドクターストップ発令です。当然「やだ」「もっとやりたい」と反発です。 先程の念押しの約束事の中身をピンポイントで改めて伝え、そして新たに、『お昼寝から起きておやつ食べたらまたあばれあそび(戦いごっこ)いっぱいできるよ』 先の見通しとイメージが持てたのでしょう、見事に聞き分け午睡の態勢に入れました。その見事さに感動してしまいました。
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