一時保育室から 子どものあそびと生活の風景 寸描①
保育園の中にある一時保育室です。 保育園の1歳児クラスの子どもと2歳児クラスの子どもに該当する子供たちが混在しています。1~2歳児の縦割り仲間です。 一日当たりの保育室の定員は10名が上限です。
給食の時のことです。その日給食室から出された献立を完食するお子さんは殊更に問題ありませんが、なかには「これきらい」「たべたくない」「いらない」と主張するお子さんがいる場面があります。家庭での食習慣や食事の傾向や考え方もいろいろですから,保育室に来た時だけみんなと足並みそろえるというのは土台無理があります。 ですから「嫌だ」というその子のその時の気持ちそのものをまず尊重します。 その子の口から嫌だと言えること、言い出せる人間関係が成り立ってこそ始めてその先に信頼関係が育つものだと考えます。自分の嫌だの気持ちがこの大人に受け止められている・判ってもらえていると子どもさん自身が実感できることこそが全ての始まりです。
保育者としてできれば『一口でも食べてほしい』という願いは当然あります。その思いを内に秘めつつ、食べることへの関心が少しでも向かうような働きかけにはいろいろ工夫を凝らしています。
同じテーブルで一緒に食事をしているお友達の様子を伝えたり、おいしそうに食べている子から『おいしいよ』の言葉が出るように嫌がっている子の周囲に働きかけます。 食事をしている子どもたちの全体に対して「おい・しー・かい?」とか「たべ・てる・かーい?」などの言葉を添えて楽しい食事・美味しい食事の雰囲気を盛り上げます。
食事は文化です。「たのしくたべる」「おいしくたべる」ことこそを最大限大切にしています。嫌がる子に対して安易に『がんばって(食べてみよう)』の類の言葉は極力使わぬように心がけています。食事は本来頑張る対象ではないと考えます。
ある日のことです、うんとかまってほしい男の子と、お友達のお世話を焼きたい女の子とが隣り合わせで食事していました。「たべたくない」という彼。 隣の彼女はその時たまたま完食の直前でした。 一計を案じて「○ちゃん、△くんのスプーンでひとくちたべさせてあげてくれる?」 「うん、いいよ。○ちゃんほらたべな」 すると魔法がかかったかのように彼は素直に口を開け、食べました。 あんなに頑固に嫌だを連発していたのに、その日の彼はこれが小さなきっかけとなってお隣さん同様の完食でした。
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