拝啓
去る8月に発刊された書籍「反東京オリンピック」の反響が広がっております。書評は別添1の通りですが、特記されるのは別添2の冒頭部分で、2012年8月銀座で行われた女子サッカーチームの凱旋パレードは反原発運動から人々の耳目を逸す狙いがあった云々と述べ、東京五輪が原発問題と表裏の関係にあることを論証していることです。
反東京オリンピック宣言 [編]小笠原博毅、山本敦久 引用元:朝日新聞書評 2016.11.20.
大衆が台頭した19世紀のイギリスで、J・S・ミルは「世論の圧制」を打破するため、「人々が普通でないということこそむしろ望ましい」と述べた。だが同時に「今や敢(あ)えて奇矯ならんとする者が極めて稀(ま)れであるということは、現代の主たる危険を示すものである」とも述べている。 ミルの指摘は、いまの日本にそっくり当てはまる。2020年の東京オリンピック開催にどれほど問題が起ころうが、開催の返上や中止を訴える声はあまり聞こえてこない。そう思っていた矢先に本書が出た。論者によって力点は異なるにせよ、オリンピックが政治と結び付き、ナショナリズムの高揚をもたらすことに、多くの論者が問題の核心を見いだしている。 では「非国民」の書かと言われれば決してそうではない。オリンピックの裏で「フクシマ」が忘却されようとしていることを告発する本書の論文からは、パトリオティズム(愛国心)が感じられるからだ。
[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史) |
五輪ファシズムを迎え撃つ 引用元:反東京オリンピック宣言 [編]小笠原博毅、山本敦久
異常な事態はすでに2012年に始まっていた.この年の8月20日、東京の鍬座では、ロンドン五輪で二位になった女子サッカーチームの凱旋パレードか行われた参加者は50万人とも.言われていたが、そこには間違いなく、当寺高揚していた反原発運動から人々の耳目を逸らし、同時に2020年五輪招致に向けて東京都民の支符率を力づくでアップさせるという、二重の目的をもったメディアの動員戦略が働いていた。事実、都民の支持率は立候補時の47%から、最終的には70%まで上昇したとされる。
それでも、マドリード、イスタンブルとの招致合戦で、東京が勝ち残ると予想していた人は、当時はまだ少数派だった。福鳥第一。原発の爆発事故からわずか二年、生々しい傷口からわずか200キロあまりの日本の首都に、全世界からアスリートと観客を呼び集めて一大スペクタクルを挙行しようなどという考えは、およそ現実離れした、ありえないことと感じられていたからだ。原発事故が収束からほど遠く、廃炉や除染作業に多くの労働者が日々大量の被爆を被りながら従事しているときに、数十万の被災者が将来の展望を見いだせないまま困難な避難生活を強いられているときに、首都圏も放射能汚染の圏外ではなく、あちこちにホットスポットが発見されているときに、どう考えてもオリンピックどころではないという「良識の声」は、2020年の夏にはまだ、東京の外に一歩出れば、世論の多数派を構成していただろう。
ところが.悪夢のような同年9月7日ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、2020年オリンピックの開催地が東京に決定きれたのである。投票に先立つ演説における安倍晋三首相のいわゆる「アンダーコントロール」発言については周知の通りだが、首相官邸のホームページに掲載されている翻訳によりて再度想起しておこう。
フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今陵とも、及ぼすことはありません。
これほど公然たる嘘の前で、人はともすると虚を衝かれ、息を飲んでしまう。すでに多くのことか語られてきたこの凶悪な言語行為について、ここであらためて付け加えることは何もない問題はこの欺瞞から紛れもない事実か生産されつつあること、そしてそのメカニズムを然るべく解体するためには、嘘を真実と、虚構を現実と対比して告発すること以外に、いくっかの作業が必要となることである。
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東京五輪の準備が福島事故がなかったかのごとく進められておりますが、東京五輪返上問題は大手メディア(日経、朝日)そして「週刊現代」(12月3日号)も取り上げるにいたり、内外で世論はその先行きに深刻な懸念を抱くに至っております。
最近大手企業出身の親しい知人から追伸の通り、福島後の真実を素直に公表して原発事故の処理に総力を注ぎ、世界の理解と協力を求めることでしか、わが国が信頼と尊敬を得る道はないとの趣旨の提言が寄せられました。
危機管理を要する段階に入りつつあると思われます。
貴総理のご指導とご尽力を心からお願い申し上げます。
敬具
追伸 下記は大手企業出身の親しい知人から寄せられた提言です。
「福島原発の事故処理と被災地の復興が遅々として進まないばかりか、放射能や汚染水の拡散、健康被害についても国内での情報公開は不十分と言わざるを得 ず、太平洋全体に汚染が拡大した状況も海外の情報で初めて知る現実があります。原発事故はすでに収拾されたとして招致した東京五輪が本来総力を挙げるべき 事故処理と復興事業を妨げている事実にも納得できるものではありません。福島後の真実を素直に公表して原発事故の処理に総力を注ぎ、世界の理解と協力を求 めることでしか、わが国が信頼と尊敬を得る道はないと考えます。」