放射能無害神話を作る動きが見られ出す中で、福島の非難区域解除が進められております。
原子力規制委員会は安倍総理に事実に反する「世界一厳しい基準」と度重ねて発言させております。国民の命に関わる福島での避難区域解除は年間20ミリシーベルトという非常事態に限定される「世界一危険な基準」で進められております。18才未満の者が立ち入ってはいけない放射線管理区域(4万Bq/㎡ 年間被曝量1ミリシーベルト)よりも危険な場所に子どもを含めて帰すなどということは、人権及び人道の見地からも到底あってはならない施策です。
フクシマ事故の教訓を無視し原価総括方式を維持し再稼働、原発技術輸出などをすすめるのは内外から原子力独裁とみなされております。心ある国民にとり救いとなるのはすべての独裁を終焉せしめるという歴史の法則の存在です。
国際市民社会は核エネルギーの全方位の破壊力(地球環境、国家、組織、個人)を理解し、「世界の命運を左右する電力会社」という警告を踏まえ、遂に立ち上がりつつあります。最も恐ろしく人間の手に負えない放射能そのものを作ることを犯罪とする立法化の動きです。今年9月バーゼルで開催されるIPPNW(核戦争防止のための国際医師会議)主催の「核時代の人権、未来の世代及び犯罪」と題するシンポジウムです。
国際社会の福島に対する関心の深さを具体的に示す事例を紹介させていただきます。
去る3月25日、中国の若者に人気のあるApril Media のRao Jin記者の取材を受けました。わざわざ中国から来訪したのは驚きでしたが、同記者は映像を編集してドキュメンタリーにするとのことです。インタービューの中で2号機問題にも言及しましたが、これに深い関心を寄せ、この問題で警告している竹本修三京大名誉教授のインタービューを希望し、3月27日には急遽京都で取材するという意気込みに感銘を覚えました。
もう一つの事例としてあげたいのは、日本在住の外国人記者、ルーシー・バーミンガム、デヴィッド・マクニールの両氏が著した『STRONG IN THE RAIN』で、書名は宮沢賢治の詩にちなんだものです。バーミンガム氏は米タイム誌、マクニール氏は英エコノミスト誌などで執筆している傑出した記者です。このほど同書の邦訳が『雨ニモマケズ』(えにし書房)として出版され、3月25日に二人の記者の出席を得て出版記念会が開催されました。マクニール氏には長年発信を続けてきており、旧知の関係にあります。2人は共同で、福島県の漁師や原発の作業員、外国人被災者らの話を聞き、2012年に原著を米国で刊行し、1万部も売れたそうです。
マムニール氏はリスクを犯しながら22回も福島を訪れております。日本に対する深い愛情がなければなし得ないことです。できるだけ多くの国民が本書を通じ原発事故が生む悲劇、その罪深さに思いを致し、その再発防止に向けて声を上げることが切望されます。(別添の解説記事ご参照)。
竹本名誉教授は2号機に関し、大量のデブリが震度6度強とか震度7度の強い揺れに遭遇したことはなく、その場合には「最悪のシナリオ」も視野に入れなくてはならず、「首都圏にも人が住めなくなるかもしれない。とても東京オリンピックどころの話ではなくなるだろう」と警鐘をならしております。
新しい時代の到来を必要としている世界ですが、漸くその息吹が感じられるようになりました。
皆様のご理解とご支援をお願い申し上げます。
村田光平(元駐スイス大使)
震災の全体像をあぶりだす 引用元:「週刊読書人」2017年2月11日
興味深いのは国内外へのメディア批判 中 村 尚 樹
ルーシー・バーミンガム イヴィツド・マクニトル著 雨ニモマケズ
外国人記者が伝えた東日本大震災
著者のルーシー・バーミンガムは、タイム誌などアメリカの大手メディアに寄稿するフリーフンスのアメリカ人ジャーナリストで、日本外国特派員協会の会長を務めるなど、日本での取材経験が豊富だ。もう一人の著者であるデイヴィツド・マクニールもイギリスのエコノミスト誌などに寄稿するアイルランド出身のジャーナリストで、日本の滞在歴も長い。 そんな日本をよく知る二人の記者が、アメリカの文芸エージェントからの依頼に応じて東日本大震災をルポしたのが本書である。六ヵ月以内という締め切りもあり、彼らが選んだ手法は、様々なタイプの被災者数人に焦点を絞り、彼らの生活を丹念に描き出すことで、震災の全休像をあぶりだそうというものだった。選ばれたのは、タイ系アメリカ人英語教師、保育園の調理師、漁師、高校生、南相馬市長、それに原発作業員という、男性五人、女性一人の被災者である。 二人の著者を含め、震災をめぐる外国人、そして外国政府の反応も詳細に記録され、貴重な記録となっている。 本書が秀逸なのは、日本を知らない外国人の読者を想定して書かれたこともあるだろうが東北地方の人びとが蝦夷(えみし)と呼ばれて大和朝廷から差別された歴史にも言及し、本書の表題となった宮沢賢治の「雨ニモマケズ」に至る、被災地の歴史的、そして社会的な背景が丁寧に書き込まれていることである。 さらに、海外でも関心が高いであろう原発事故について詳細に描かれているのはもちろんだが、興味深いのはメディア批判である。 まずは外国メディアについて、フクシマ取材のため「日本について何の知識もないジャーナリストが大勢日本に派遣」された結果、「不正確な、あるいはバランスを欠いたレポート」が出回ったと批判す]る。では日本のメディアはどうであったか。著者は「日本の大手新聞とテレビ局が国の政・財・官のエリー卜から得た情報をそのままメディアとその向こうにいる国民へと伝える」記者クラブ制度の問題点を明らかにする。そのうえで「日本の新聞社の記者は自ら危険を冒そうとしない」と、鋭く指摘する。 本書のサブタイトルは「外国人記者が伝えた東日本大震災」だが、外国人であろうとなかろうと関係なく、彼らはジャーナリストとして、綿密な取材に基づき、震災と原発事故の真相に迫っている。相対的に浮かび上がってくるのは、日本の大手メディアが、報道のあり方を含め、様々な課題をあるがままに伝えていないことである。 2012年にアメリカで出版されて評判を呼んだにもかかわらず、「これほど優れたルポルタージュが、これまで日本で翻訳されなかったこと自体、本書が指摘するところの、日本のメディアの体質の一端のみならず、日本そのものを表している」と、版元の代表が「日本語版刊行の経緯」として書いているのは、正鵠を得ている。設立間もない独立系一人出版社が版元となったのも、象徴的である。 著者は終章を「東北魂」と題し、自然と共存する道こそ、これからの日本の針路であろうと提言している。「宮沢賢治の詩に想いを込めた」という二人の著者が、私には、日本人以上に日本を愛する真の日本人のように思えてきた。(PARC自主読書会翻訳グループ訳) (なかむら・ひさき氏=ジャーナリスト)
★ルーシー・バーミンガムはジャーナリスト・脚本家・編集者・フォトジャトナリスト。 ★デイヴィツド・マクニ-ルは「エコノミスト」誌ほかの記者、「クロニクル・オブ・ハイヤーエデュケーション」アジア地域特派員。 |
書籍紹介「外国人記者が見た東日本大震災」=冷静で新鮮な見方示す= 引用元:日本経済新聞 2017.3.11.
外国人記者が見た東日本大震災 冷静で新鮮な見方を示す
雨ニモマケズ: 外国人記者が伝えた東日本大震災 [単行本] ルーシー ・バーミンガム デヴィッド・マクニール えにし書房 2016-12-21
日本在住の外国人記者二人による迫真のルポルタージュ。
この災害を、海外の人々はどのように見つめ、どう感じてきただろう。 震災から6年がたち、外国人ジャーナリストによるルポルタージュが邦訳され始めた。 日本在住の外国人記者による被災者の取材録が、ルーシー・バーミンガム、デヴィッド・マクニール著『雨ニモマケズ』(えにし書房)だ。 バーミンガム氏は米タイム誌、マクニール氏は英エコノミスト誌などで執筆している。 2人は共同で、福島県の漁師や原発の作業員、外国人被災者らの話を聞き、2012年に原著を米国で刊行した。 原著タイトルは『STRONG IN THE RAIN』で、宮沢賢治の詩にちなんでいる。 本書で生々しいのはやはり震災を体験した外国人の姿を伝えるリポートの部分だ。 彼らも日本人と同様に乏しい情報に混乱し、苦悩した。 日本で暮らす外国人の間では当時、出国する人々への共感と不満が交錯していたが、著者は日本に残るにしても去るにしても、その選択には多くの理由があり、それぞれに当然の判断だったと考える。 翻訳したのはNPO法人「アジア太平洋資料センター」が運営する講座の受講生による読書会「PARC自主読書会翻訳グループ」だ。 同グループは5~10人が海外発の英文資料を読んできたが、14年に本書の存在を知り、約1年かけて翻訳したという。 それを読んだえにし書房が「震災から5年以上がたった今でも新鮮な内容」と考え、刊行を決めた。 震災後に来日した外国人によるルポが、アルノー・ヴォレラン著『フクシマの荒廃』(神尾賢二訳、緑風出版)。 著者は仏紙リベラシオン特派員として12年に来日し、主に福島第1原発の被害を伝える。 16年に刊行した原著は仏有力紙などで評価された。 この本の評判を、かねて海外メディアの報道をまとめた『世界が見た福島原発災害』をシリーズで出版してきた緑風出版が知り、翻訳を決めたという。 「海外ジャーナリストは日本の政治や社会情勢に左右されず、冷静に状況を見ている」と同社の高須次郎代表。 そうした見方を日本にも紹介することで、被災地を多角的に見つめ、震災について考えるきっかけにしてほしいと話す。
(文化部 岩本文枝記者) |