お話し森の山小屋で (第8稿) ~3/4~
⑤ ヴァムじいちゃんと革の靴
「おや、君の履いているその革靴は…? 前にどこかで見たことがある靴だぞ。君は?」 「これ?おばあちゃんからもらったの。あたしの名前はセリーヌ。 おばあちゃんが いまのあたしくらいのおんなのこだったときに おばあちゃんのおとうさんがつくってくれたんだって。」 「すると君はヴァム・ルッシュボーンさんのひ孫というわけだ。」 「あたしのパパは『ヴァムじいちゃん』っていっているわ。 テーブルさんひいおじいちゃんのことしっているの?」 「知っているどころか、このテーブルの私を作り直してくれたのも ヴァム・ルッシュボーンさんなのだよ。」 「ひいおじいちゃんのはなしききたい。」 「それじゃあ、そのヴァムじいちゃんのお話をしようね」 「あれはまだヴァムさんがカテリーナさんと結婚して7年目の春 ターニャが5歳の誕生日を迎える一週間前の朝だった。」 「カテリーナさんてだあれ?」 「カテリーナさんは君のひいばあちゃん。ターニャは・・・」 「わかった、あたしのおばあちゃんのことね。」 「そうとも、そのとおり」 「へえ~おばあちゃんにもなまえがあったんだ。ぼく・・・」 「おや、君は・・・」 「あたしのおとうと。ジョーイよ」 「ぼく、おばあちゃんって 『おばあちゃん』っていうなまえかとおもってた。」 「はっはっは、だれにもなまえはあるよ。すてきななまえがね。 さて、お話をつづけよう。」 「ききたい、ききたい。」 「ヴァムさんはターニャが5歳になる一週間前の朝、 『うん、これだ。5歳のプレゼントはこれにしよう。』 とっても素敵なことを思いついた。 『お早う、ヴァム。どうしたの?とってもうれしそうね。』 『やあ、カテリーナ。おはよう。 ターニャの5歳の誕生日のプレゼントのことさ。 何にするか決まったんだ。これさ。』 ヴァムさんは、自分の履いている破れかかった革靴のつま先を パクパクさせながら言ったんだ。 『ターニャに靴を?パーチのお店で買うの?』 『いいや、買わない。私が自分で作るのさ?』 『あなたが自分で靴を?作ったことあるの?』 『一度もない。けれど作ってみようって思ったのさ。』 『靴を作るなんて難しいんじゃない?できるの?』 『多分、難しいだろうな。・・・でもね、ほら、 さっきからこの靴もぱくぱくとしゃべっているじゃないか。 できるかできないかなんてやってみないとわからないさ。ってね。 この靴が作り方を教えてくれるよ。』 それからヴァムさんは七日七晩かけて サクサク ジョキジョキ コツコツトン 上から下から キュッキュッキュ。 そして、靴は完成した。 私はその時の話をヴァムさんに聞いたことがある。 『ヴァムさん、どうやってあの靴を作ったんだい?』 『まず始めに、自分の履いていたパクパク靴を丁寧に分解した。 そして、隅から隅まで注意深く見たんだ。そして解った。 なーるほど、靴っていうのはこういう風にできているんだってね。 それをお手本にまさにみようみまねでじっくり慌てず、 ひと針ひと針縫いあげた。 靴を作ろうって閃いたときから、靴が仕上がるまでの間のことだ。 何度も不思議な体験をした。』 『不思議な体験ってどんな体験?』 『何か閃いたり、思いついたり、発見をする度に、不思議な何かが 私の周りをくるくると廻るんだ。 よく見ようと手を止めると何も見えない。 けれども、何かがくるくる廻っているのを感じるんだ。 そして、聞こえるんだ。彼らの熱烈な拍手の音をね。 正確にいうと実際には聞こえないんだが感じるんだ。』 『彼らって、誰?』 『ものづくりの妖精さんたちだ。』
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