カイロ団長・考 その6 雨蛙たちが悲惨の中で気づいた慈しみの心
自分たちに無理難題を強いてきた殿様蛙が、王様の命令によって巨貫の石を運ばされることになりチャレンジしてみたものの石はびくとも動かず (前略)殿様蛙はまた四遍ばかり足を踏ん張りましたが、おしまいの時は足がキクッと鳴ってくにゃりと曲がってしまいました。雨蛙は思わずどっと笑いだしました。
~この時の雨蛙たちの心情は自分たちを過酷な労働に追いやってきた殿様蛙の悲惨な姿にさぞや溜飲が下がったことでしょう。ところがお話はこう続きます~
雨蛙は思わずどっと笑いだしました。がどういうわけかそれから急にしいんとなってしまいました。それはそれはしいんとしてしまいました。皆さん、この時の淋しいことといったら私はとても口で言えません。皆さんはお解りですか。どっと一緒に人を嘲(あざけ)り笑ってそれから俄かにしいんとなったこの時のこの淋しいことです。
~何か大切なことに気付ける瞬間です。そして雨蛙たちがこの寂莫とした荒涼感の中で気づいた情けは「相手への嘲(あざけ)りを突き抜けた慈しみの心」だったのだと私は思います。憎しみや恨みつらみの連鎖では心の平穏は訪れません。悲惨をいつくしめる心情こそが大切なのです。賢治さんはこの一点を私たちに伝えたくてこの『カイロ団長』のお話を綴ったのだと思います。次に出てくる第二の王様の命令は雨蛙たちや読者である私達に向けてのメッセージでもあります。~ (中略)「…王様の新しいご命令。全てあらゆる生き物はみんな気のいい、かあいそうなものである。けっして憎んではならん。以上。」(中略)そこで雨蛙は、みんな走り寄って、殿様蛙に水をやったり、曲がった足を治してやったり、トントン背中をたたいたりしました。 殿様蛙はホロホロ悔悟の涙をこぼして、「ああ、皆さん、私が悪かったのです。私はもうあなた方の団長でもなんでもありません。私はやっぱりただの蛙です。明日から仕立屋をやります。」雨蛙は、みんな喜んで、手をパチパチ叩きました。(後略)
~読み終えてささやかながらすがすがしさを届けてくれる『カイロ団長』のお話です。 この作品を私は今週土曜日(6/10)『第31回ひねもす朗読会』で朗読します。
|