本21日発刊の「月刊日本」に掲載された私のインタビュー記事(記事コピー及びテキスト)を別添お届け致します。
東京五輪の今後は別途ご報告する歴史的最終宣言(実質的に核兵器のみならず原発の建設を禁止)を発出したバーゼル会議が国際社会に及ぼす影響、フランス検察当局の動きなどを踏まえて判断する必要があリ、重大な政治問題になりつつあると思われます。
村田光平)
(元駐スイス大使
村田先生インタビュー 引用元:月刊日本 10月号
東京五輪を返上せよ!/月刊日本 (8月25日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉)
■東北・関東で「周産期死亡」が上昇
―― 村田さんは以前より東京五輪を批判してきました。改めて東京五輪の問題点を教えてください。
村田 東京五輪の最大の問題は、倫理・道徳の欠如にあります。もともと2020年のオリンピックの開催地が東京に決定したのは、安倍首相が行った五輪招致プレゼンテーションによるところが大きかったと思います。あの時、世界中の人々が福島原発事故の影響を心配していました。そこで、安倍首相は原発事故について「アンダーコントロール」と言ってしまわれたわけです。
しかし、福島原発の現状を見れば、原発事故が収束していないことは明らかです。燃料棒がどこにあるのかも十分には把握できていませんし、そもそも廃炉技術も確立していません。
特にいま問題になっているのは、福島第一原発の2号機です。京都大学名誉教授の竹本修三氏は、2号機の建屋は震度7クラスの地震が起こると崩壊するような状態にあると指摘しています。また、2号機のすぐ脇には既にかなり損傷している排気筒が存在しており、これが崩落すれば数兆ベクレルの放射能が流出する恐れがあります。こうした懸念は福島県庁の関係部局によっても共有されております。
放射能による健康問題も深刻化しています。東京工業大学特任教授の入口紀男氏によれば、「周産期死亡」が関東や東北で有意に上昇しているそうです。「周産期死亡」とは、妊娠満22週以後の死産と、生後1週未満の新生児死亡を合わせたものです。放射能汚染の影響は甲状腺癌だけではないのです。
その意味で、安倍首相のアンダーコントロール発言は、全世界を欺くものだったと言えます。私が倫理・道徳の問題だと述べたのはそのためです。これは安倍政権だけでなく、このような発言を批判しない日本国民にも責任があります。 もっとも、国際社会では安倍首相のアンダーコントロール発言に対して疑問を呈する声があがるようになっています。例えば、ヘレン・カルディコット財団の理事長であり医者でもあるヘレン・カルディコット氏は、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長に対して、東京オリンピックに出場する選手たちの健康を憂慮する手紙を送っています。2020年が近づけば近づくほど、「本当に福島原発事故がアンダーコントロールされているのかどうか確認してほしい」といった声が増えてくるはずです。
そのため、いくら日本政府が福島事故の真実を隠そうとしても、いつまでも隠し通すことはできないでしょう。危機管理を要する段階を迎えております。日本政府は国際社会に対して福島原発の状況をしっかり説明し、事故収拾への決意を改めて世界に表明すべきです。
■オリンピックのあり方そのものを見直せ
―― 安倍政権は相変わらず東京五輪を推進していますが、最近では大手メディアがオリンピックを批判するようになっています。
村田 朝日新聞は社説で「国立競技場の建て替え問題に始まってゴタゴタが絶えない状態に、国民の間には五輪に対する嫌悪感すら漂う」と指摘し、また新国立競技場の建設現場で過労自殺が起こったことについて、「人の命や健康を犠牲にして行われる五輪など、矛盾以外の何ものでもない」と批判しています。 毎日新聞も「東京五輪の開催期間は酷暑のため、運動を中止すべきだとされるレベルを大幅に超える」といった記事を掲載し、さらに毎日新聞客員編集委員の牧太郎氏が「〝東京五輪病〟を返上!」として東京五輪を厳しく批判しました。大手メディアも徐々に変わりつつあるということだと思います。
メディアだけでなく政界も変わり始めています。特に総理経験者の動きが注目されます。日刊スポーツが報じたように、細川護煕氏、羽田孜氏、村山富市氏、鳩山由紀夫氏、菅直人氏という首相経験者5人が安倍政権を厳しく批判しています。この中で、鳩山氏は明確に東京五輪に反対しています。細川氏は脱原発を訴えて知事選に立候補された経緯からみて反対の立場と推測されます。 菅氏は東京五輪について態度をはっきりさせていませんが、彼は脱原発を訴えているので、いずれ五輪返上へと傾かざるをえなくなるでしょう。 これは小泉純一郎氏にも言えることです。小泉氏も脱原発を強く訴え、安倍首 ば、五輪返上にならなければおかしいはずです。 ―― 東京五輪だけでなく、オリンピックのあり方そのものを見直すべきだという声もあがるようになっています。
村田 東京オリンピックの次の2024年夏季大会はパリ、2028年夏季大会はロサンゼルスで行われることになっています。これは住民投票などでオリンピック反対を突きつけられる都市が相次いでおり、パリとロスしか候補地として残らなかったからです。
しかし、パリとロスは過去にオリンピックを開催しています。これでは新しい都市でオリンピックを開催することでオリンピック精神を広めていくということができません。
本来であれば、パリとロスしか名乗りをあげなかった時点で、IOCはオリンピックのあり方そのものを抜本的に見直すべきでした。しかし、彼らはたいした議論もせず、安易にパリとロスを承認してしまいました。これはひとまず開催地を決定することで、商業的な利益を確保したいという思惑があったからでしょう。このような状況が続けば、資本力のある大都市しかオリンピックを開催できないということになってしまいます。
こうした事態を避けるために、例えば、オリンピックの開会式は常にアテネで行うとか、特定の競技は常に特定の国で行うといったようにすべきだという議論もなされています。そうすれば、オリンピックのたびに莫大なお金を使って招致運動を行わなくてもよくなります。これは一例にすぎませんが、知恵を出せば様々なアイディアが出てくるはずです。 ―― 東京五輪まであと3年あります。日本も東京五輪のあり方そのものを議論すべきです。
村田 私は東京五輪を返上すべきだと考えています。最初に述べたように、東京五輪は全世界を欺いて獲得したものです。このような不道徳を許してはなりません。 東京五輪を返上すれば、福島原発事故の現状を全世界に知ってもらうことができ、日本国民も道徳や倫理の重要性に改めて目覚めることになります。オリンピック返上は日本が生まれ変わるための第一歩でもあるのです。いまこそ日本は「福島事故処理に全力投球する」という大義名分のために、オリンピックから「名誉ある撤退」をすべきです。世界もそれを望んでいます。 |