○…国鉄の各線を一枚切符の一筆書き旅行でどれだけ乗れるかという試みは5年前に東大旅行研究会五人のダループによって行なわれたか、この記録をさらに31キロ更新したという大学生か29日午後札幌管理局広報課を訪れた。
○…この学生は中央大学法科二年清水正君(21)と慶大商科市丸義洋君(21)の二人。九州の南端枕崎駅をさる2月28日に出発、今月28日北海道広尾線の終着駅広尾に到着した。この旅行で清水君たちか乗った国鉄線区は168線区で166本の列車、連絡船をのりつぎ、旅行キロ数は国鉄営業キロの約半分にあたる1万217.3キロ。準急、急行はわずかに15本利用しただけで、あとは鈍行列車を利用したという。
○…この一筆書き旅行を調べあげるのに約一週間、交通公社で乗車券作成に半日かかたという。この運賃は枕崎広尾間の学割で8,878円になり、旅行中は車中や知人の家に泊ったため、旅行に要した費用は総額3万円ですんだとのこと。(昭41.3.31交通新聞札幌発)
1万2千キロの旅「一枚の乗車券でできる、最も長い一筆書きのコースを乗り歩く」―これか今回の旅行の条件であった。なるべく安く、なるべく長い距離を乗ってみたいと思うのは当然であり、同時に5年前、東大旅研の四氏が記録した1万2,145.3キロの当時の最長距離を更新しようという目的もあった。何日もかかって考えあげた日本一周のコースは、図のとおり高知県以外の全府県を経由する枕崎-広尾間1万2,176.3キロの行程であって、これは直線距離にすると東京から南極のボストーク基地、キユーバ、ローデシア等に達する数字である。
運賃はいくらかかるか。2月24日、つまり3月の運賃改訂前に買ったおかけで、学割で8,878円、一円で約1.4キロ乗車できることになり、国鉄運賃の安さには改めて驚かされ、こういった旅行に関しては少々値上げがあってもよかろうと感じたわけである。できあがった乗車券は経由駅が多いため、券面に書きこめず、券の二倍大の「別紙」に164の駅名が書きこんであった。
旅館には一度も泊らず、夜行列車か10回、駅の待合室の長椅子で寝たのが10回、あとは各地の知人宅に泊まったなど強行軍のこの旅行は、なるべく安あがりでやるつもりであったが結局いくらかかったのか。
「最長乗車券」の8,878円に枕崎へ行く分、広尾から帰る分や急行券などの交通費か1万6,150円、新聞雑誌490円、休憩料1,500円、通信費360円、食費6,502円、146駅で買い求めた入場券料金が2,690円、その他580円となり、一ヶ月旅行の合計が2万8,272円交通費を除いた生活費は一日平均280円と全く、きりつめた生活とたった。乗車した線路は168線、列車は173本、連絡船3便、安く行こうという点からすべて普通列車にしたかったのだが、17本の急行、準急列車を使った。夜行に普通列車がないとか、接続の関係でやむをえず利用したものである。
日程は2月28日枕崎を出発してから、3月28日広尾に到着するまで足かけ29日、要した時間は27日12時間5分。
こんなに短い時間でロ本一周をやるのだから、のんびりと観光していることはできない。ただ列車に乗っているだけの「旅行のための旅行」であった。
1万2千キロ旅行の途中鉄道職員に、こういうことをやっていると話せばどこでも親切にしてくれた。車掌に沿線案内をしてもらったり、駅長助役から説明を聞いたり、隣合せに坐った乗客からも旅や地理についていろいろと質問され話しあった。
こうしてただ一つの目的の旅行であったが、全国の風土、文化、人間に接することができ、予定どおり終ることができた。(東京鉄道少年団出身)
[明るい旅 No.42] 昭和41年4月25日より