春 秋 游 吟 03
青 春
春愁に霞む翳りの下弦月
春愁の何処吹く風と 霄(そら)晴れる
積年の夢駆けめぐる はや燕
木の芽風ヒールの跫(おと)を運びけり
武蔵野の台地を 捌(は)けてはなのあめ [清明]
ことのはの虚構を醸(かも)す吟醸酒
朱 夏
立葵 朱(あけ)立ちのぼる霄(そら)の果て [芒種]
凌霄(なふぜん)はあめの重さに散るも佳し
耳元にかぜの韻(おと)あり梅雨 霽(は)れ間
風の条(すじ)影を落として梅雨 霽(は)れ間
ワイン賜る ボルドーの池水秘めたり あかとしろ
憂ひ霄(ぞら) 凌(しの)いで丹(あか)し凌霄花(なふぜんか)
炎熱の陽や赫(あか)きはなうち打ちて [大暑]
夏山や「天上大風」如何ならむ ≪良寛書に「天上大風」≫
花魁草(おいらん)が何故に白日受けて佇つ
白 秋
萩しろし風しろくしておほき寺 [大暑]
吹き抜ける風のしろさを萩が染め
境内をしろく吹き抜く萩のかぜ
ひと植ゑし萩波羅蜜多るしろきかぜ
佇みて萩の風韻聴かばやな
露のしろ 風の白さと競ひあひ [白露]
何となく尾を立つ猫や今日の秋
たかはらの風に跡曳き今朝の秋
風知草(かぜくさ)をかぜ靡かせて白露過ぐ
木曽路の宿「りんどう」の女将を愛しんで 野にあれば竜胆凛々し木曽をみな [霜降]
ふらふらと光に舞ひて凍ての蝶 [小雪]
小春なす光に浮かれ つひの蝶 ≪対と終の両義である。≫
横山を視て多摩川に つひの蝶 ≪古典に「多摩の横山」とある。≫
多摩川に終(つひ)の舞ひなる蝶あはれ
蔦葛 一葉に 観(み)ゆる秋なべて
団栗六句・和泉龍光寺 団栗のもの打つ韻(おと)に寂やどり
団栗の韻(おと)の在処を甃(いし)にみる 《甃=敷き瓦、敷石》
団栗降って渡りひずみや寺の甃
団栗を甃に踏みつつ ひと想ふ
団栗を踏んでにほはし甃のあめ
甃に踏む団栗あはれ寺の庭
玄 冬
昼紅葉かぜにこと寄せ鵯(ひよ)を呼ぶ [立冬]
黄もみじを霄(そら)にうつして鵯(ひよ)の昼
ひとに南国土佐の美酒賜りて 南国の美酒に仄かな陽のにほひ [冬至]
はや冬至 たちて薄暮の 熄(や)みかたし
古稀超へて をみなは遠き冬の街 [小寒]
丑歳に因みて 熄(い)り陽受く木守りの柿やうし世相(このよ)
春立ちて 凍りしも「春立つ今日の風や解く」 [立春] ≪新古今集・定家が一首に「袖ひじてむすびし水の凍れるを春立つ 今日の風やとくらむ」とある。≫
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