春 秋 游 吟 08
信濃追分・泉洞寺、文学散歩径六句 夏木立「泡雲幻夢」かぜ一微 [処 暑] 《泡雲幻夢童女=信濃追分・泉洞寺にある墓碑。幼くして鬼籍に入った幼女の戒名。立原道造のソネットに登場。その墓は泉洞寺の墓地の傍らに寂しく立たずまう。なんと素晴らしい戒名ではないか。》
秋風を招き泡雲幻夢かな あきあかね 泡雲幻夢の魂(たま)かとぞ あきあかね腐れ墓標を飾りたる
朽ち落ち葉なべて跫音(あしおと)ふふはりと
萓草(わすれぐさ)咲き残りたる貌(かお)あはれ
◇ ◇ ◇
高原(たかはら)のかぜを想へば露しろし [白 露]
あきかぜの撚(よ)れて紡ぎし露の彩(いろ)
はつあきのかぜのもたらす露皓(しろ)し
かぜ結ぶ「白(はく)」「皓(かう)」「皎(かう)」か菊の露 《白=無色の意。 皓、皎=しろく輝く意。》
菊の露溜めて水彩画(みずゑ)を描(えが)きたり 《菊の花に結んだ露で墨をすり書をなすと上手になると言われた。はたして絵画では。》 吹き止まぬかぜに野菊の戦慄(わなな)きて
野の花の「吾亦た紅し」は呟(つぶや)きか 《吾亦紅=秋草、暗紫色の長球形の花穂。根は漢方薬。》
S会M・K様渡涅槃 亡き人の絵やなつかしき萩のかぜ 合掌
汎美秋季展来館礼状に添えて ひととせも須臾に吹き抜く萩のかぜ
萩こぼるゝ言問い道の夕陽かげ [寒 露]
烏瓜その緋の招く夕陽かげ
烏瓜緋の中にあり夕景色
「冬隣」しまらく経てば冬となり
露寒し かぜを含める萩の彩
小春日のかぜ幽(かそ)けしと降る木(こ)の葉[霜 降]
紅葉はをかぜが運びて瀬をはやみ
凩(こがらし)のまひて韻(おと)あり凄きゆめ[立 冬]
小雪(せうせつ)のかぜ艶(あで)やかに木の葉降り [小 雪]
S会M・S様退会に寄せて 主不在(あるじなき)彩(いろどり)の水 かげの冬 《S氏は長年に渡り彩水会の会長を務められ、卒寿にして退会。》
木の葉降ってなほ閑寂に昼のゆめ
ひらひらと舞ひあはれなり終(つひ)の蝶 [大 雪]
M・M様に麦酒賜りて 風呂吹きや生命の水のあらひだし 《生命の水=ビール》
初冬の菅平高原望岳 しろがねの衾(ふすま)の岡辺横一線
隙間風夫婦(めおと)の間(あはひ)より寒し
虎落笛(もがりぶえ)その音寂しや床のゆめ
M・T様にハム類賜りて 燻製のかをりいと曳く冬至の陽 [冬 至]
湯豆腐や一陽来復葱のあを
「三・三が九」 「三・五 一五」四句 山茶花や句にしてなほも皎(しろ)きさま
山茶花(さざんが)や此処の津(ここのつ)に散り揺蕩(たゆた)ひて
草珊瑚十五夜月のかげ射して
坪庭の山茶花く(サザンが九)らき闇白み
◇ ◇ ◇
室内のかげながくして枯れ葎(かれむぐら)
M・S様に山形の銘食賜り二句 賜りし酒田の酒肴冬至呼び
□之井の□に□寄せ冬疾風(ふゆはやて) 《□□□=ご姓名のため伏せ字としました。》
M・T様にワイン賜る 降誕に賜る御酒の絳(あか)や濃し
唇に茜をさして入り陽熄(や)む
M・S様個展に寄す、タブロー(絵画)二句 たぶらふの五十年(いそとせ)超へつ けふの春 [小 寒]
たぶらふの朱(あけ)吹き抜けてはるの風
◇ ◇ ◇
大寒や虚空(そら)一点の鳥靡く [大 寒]
《二〇一〇年処暑より二〇一一年大寒まで》
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