春 秋 游 吟 18
二〇一三年小暑より秋分まで
[小 暑]
にはたばこの黄こぼれたり久方の 蒼穹ふかく風わたりたり 《にわたばこ=正式名「ビロードモウズイカ」身長ほどになる大型二年草》
ゆふすげやその黄に想ふひとぞたれ 《ゆうすげ=夏に黄花を咲きあげてゆく》
ゆふすげのうす黄さまよふ夕まぐれ
わすれぐさその名哀しき朱(あけ)のかぜ 《わすれぐさ=藪萱草の別名、百合に似た橙色の一日花を咲き続ける》
はなおいらん いま咲かむとす紅の色
捩摺草(もぢずりさう)忍ぶるごとく芝に咲く 《捩摺草=陸奥(みちのく)の しのぶもじずり誰ゆへにみだれそめにしわれならなくに》
撫子(なでしこ)は蝦夷(えぞ)をおもふか風にゆれ 《撫子=軽井沢撫子。正式には蝦夷河原撫子》
[大 暑]
唐花草細き蔓もて絡みたる 日常瑣事のごときおまへよ 《唐花草=ホップの原種。野生のホップ》
ゆく雲や鵯つひばめりあをすぐり 《あおすぐり=我が家のブルーベリー》
雷閃光 彩(いろ)打ち付けよしろき画布
みやこぐさ今年未だ見ず青浅間 《みやこぐさ=豆科の野草。鮮黄色の蝶形花が青く煙る浅間山に似合うのだ》
積雲に果てなむ想ひかぜ亘(わた)る
積雲は夏まぼろしに昼の夢
積雲と夏風の昼つやめきて
積雲の連なる果てや風の径
夏林道歩みし果ての眞暗闇
盆旱(ひでり) 眞昼森閑と風そよぐ
[立 秋]
かそけしや樺の葉擦れに望の月
樺落ち葉何故に魁(さきがけ)秋散らす
[処 暑]
浅間峰の今日も晴れたり処暑のかぜ 《信濃追分出身の書家・稲垣黄鶴の句に「浅間峰の今日は晴れたり蕎麦のはな」とある》
雷神の猛りも失せて処暑のかぜ
あき霖雨 兆す雨あり風去(ゆ)かず
巻積雲(さばぐも)におもふことありちちの彩
乳白色(ちちいろ)は乳房のいろか秋の雲 《いろか=「色か?」と思うも「色香」と思うもよろしきことと候》
行く雲と流れる水と夏は去(ゆ)き 《行く雲と:=行雲流水、つまり「雲水」(禅僧)》
風に色 なしと思へず吾亦紅(われもかう) 《吾亦紅=秋に暗紅色の花咲く草本》
鳥翔ひて空のあをさに秋を聴く
[白 露]
夕去れば一入哀し秋の蟲
己想ふ 蟲と同じかちちろむし
我が想ひ曳けば果てなむ空のあを
蒼穹(さうきゅう)に刻(とき)とどまりてわれは無し
碧霄(へきしゃう)の深さはるかなり雲流る
[秋 分]
はなおいらん夏の名残の姿態(かた)あはれ
八甲田山・田代高原
大嶽を風吹き下ろし萢(やち)そむる 《萢 =谷池、高層湿原 大嶽=八甲田大嶽》
秋薊(あきあざみ)萢(やち)染める風むらさきに 峰桜枝方々(はうばう)と秋を刺す 《峰桜=桜の高山種で矮性》
枯れ弟切草(おとぎり)その名哀しやはらからの 《弟切草=仲の良い兄弟の弟が、鷹に教わった秘密の「血止め草」を他人に喋ってしまったので兄が怒って弟を切り付けたと言う伝説》
八甲田山・睡蓮沼
未草(ひつじぐさ) 泛(うか)べて映す鰯雲 《未草=睡蓮の原種。未の刻つまり十四時頃に咲く》
沼深閑 未(ひつじ)の刻の空のあを
七竈(ななかまど)彩(いろ)付き初めてかぜの沼
大嶽(やま)の秋かげむらさきにして沼に落つ
曼珠沙華 緋と燃へまほしきみがむね
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