桜花返咲図扇面 一幅 細見美術館
紅葉や虫喰いの描写に、画家の写実的な観察眼がうかがわれる。
署名の書体は、其一の最も若い時期の作品であることを示す。抱一のもとで修業しながらも、独自の様式を内に秘めた其一の初期作である。
吉原大門図 一幅 ニューオータニ美術館大谷コレクション
吉原大門からつづく仲の町通りを東から眺め、入ってすぐの引手茶屋「山口巴屋」の様子や吉原に行き交う人々の諸相をとらえる。花魁、芸者、禿、酔客、按摩、老人、若侍などと、各種の人々を等しく観察し一ヵ所に集めた。其一は群像の表現にもはやくから関心を寄せ習熟していることを示すが、「其一戯晝」と意識的な署名をし、他に使用例のない「毀誉不動(毀誉に動ぜず)」印を捺している。この意識は晩年まで続く。
宮女奏楽図 一幅 大倉集古館
絹地に描いた扇面型に、極彩色で王朝風俗の宮仕えの女性が管弦をするさまを描く。源氏絵などやまと絵を念頭に描いたらしく、全て細い線で描き起こしており琳派風の人物像とは異なっている。草書体の落款は初期のもので、205図とほぼ同時期の作と思われる。抱一没後数年の其一が既に極めて高い技量を誇っていたことが明白である。
山水図 一幅 天保二年(1831) 大倉集古館
「天保辛卯新春」の年紀があり、天保二年、其一三十六歳の正月の作。
扇面型に淡彩で中国文人画の青緑山水図を模して描く。比較的小さな画面ながら、盛り上がるような山や遥かに霞む遠山、豊かな水量の爆布など、ダイナミックな山水風景を緻密な筆致で描き込んでいる。三十代半ばの其一が多様な作風を収めていることを披露する。なお抱一の「絵手鑑」(静嘉堂文庫美術館蔵)や『抱一上人真蹟鏡』にも同様の山水画が見出される。
漁夫図 一幅 板橋区立美術館
漁夫や樵夫、農夫などは、古来月次風俗図などにも描かれる伝統的な画題。本図ももとは農耕図と対幅だったのではないか。漁師らは狩野派作品等に倣うと思われる。一方海辺の岩場は群青や緑青、金泥も用いて鮮やかで、彫塗り風の力強い輪郭線がさらにその色彩を際立たせている。こうした明快な画面構成は「噌々」落款時代によく試みられたもので、晩年の書体の本落款は後入れの可能性もある。