龍上玉巵(ぎょくし)図 一幅 細見美術館
中国の仙女西王母の娘、玉巵が龍に乗り琴を抱く姿を描く。水墨の惨みを利用して龍の出現を表わし、くっきりとした墨線や濃い彩色で仙女を鮮やかに浮かび上がらせている。
落款は金泥で「噌々其一」とある。飛躍期となった噌々時代、其一は様々な画題、技法に積極的に取り組んでおり、本図もそうした意欲の表われといえよう。
昇龍図 一幅 個人蔵
雲をかき分け天へ昇る小龍。雨を呼ぶ龍の猛々しい姿が、潤いに富み、墨の滲みを利かせた濃淡の雲の中に鮮烈である。鱗は鯉に、角は鹿に似る、とされる龍の定義に拠るのか、霊獣というよりもどこか親しい動物を想起させる姿でもある。隷書で「噌々其一」の署名があり、慶賀の記念の作と思われる。
牧童図 一幅 個人蔵
牛飼いの少年を描く水墨画は、牧童図として中国はもとより、室町水墨にも優品が多い。一般にほのぼのとした牛と純朴な少年の取り合わせが好まれたと思われるが、其一の本図では墨の濃淡を効果的に用いて動きのある場面を切り取っている。牛との力比べに懸命な少年の姿には、瑞々しく切れ味の良い「噌々」期の筆致がよく表われている。
群禽図 双幅 個人蔵
「噌々」落款があり、其一三十代後半以降の作。左右に計二十六羽の鳥が一羽ごとに種類を違えて描かれている。猛禽類へのモビング(擬攻撃)という小鳥の集団行動を描いたものかとの指摘がある。昼間は目が見えないミミズクを小鳥がからかうのでおとりとする「木菟引(ずくひき)」を描いた先例が抱一にあるが、そのあっさりした図様を展開、李朝画のように双幅を横切って大きく円環する樹幹の内に充満させた。
珍しい鳥も本図に加えた其一の手許には、相当の粉本・資料が蓄積されていたに違いない。