蔬菜群虫図 一幅 出光美術館
胡瓜や茄子に虫が戯れる草虫画は中国に源泉があり、日本でも室町時代から模して
描かれている。其一は草虫画の構成を借りながら、葉や実には洋画のような陰影をつ
け、照り映える青々しい面の連なりや、画面を複雑に行き交う蔓の無秩序な動きを楽
しんでいる。棹の先端には雀を、根元には蛇苗を描き添え、濃密になりがちな草虫画
を愛らしく演出している。
秋草図 双幅 徳島市立徳島城博物館「噌々」期に抱一風の草花を描いた珍しい双幅。この時期の其一は多様な画題や作風に挑戦し、力強く鮮明な作品が多いが、本図は左右向き合うように優美な秋草を配し、濃彩と淡彩を併せた抱一様式を前面に押し出している。
阿波蜂須賀家十三代斉裕の息女加代の遺愛品で、蜂須賀家には他にも其一作品が見出されることから同家に其一が出入りしていた可能性が高い。
弓張月図 双幅 細見美術館
『平家物語』巻第四「鵺(ぬえ)」より、源三位頼政の名場面を描く。頼政は夜毎に天皇を脅かした怪物を退治し、名を挙げる。それを藤原頼長が「ほととぎす 名をも雲井に あぐるかな」と詠むと、頼政が「弓張月の 射るにまかせて」と続けたという。
鮮やかな色彩の右幅と、淡彩で卯の花にほととぎすを描く左幅が見事に調和している。
桜町中納言図 一幅 千葉市美術館 桜町中納言とは、平安末の貴族藤原成範のことで、邸内に溢れんばかりに桜を植えて愛でたという。『光琳百図』に収載した光琳画に基づく図様で、抱一がいくつものパターンで描き、『鶯邨画譜』にも収載したことで、この其一画以降も江戸琳派でよく受け継がれた。其一のシャープで完璧な造形主義が緊迫感まで与えてくる。「噌々其一」と款し、「祝琳斎」末文円印を捺す。中野其玉の箱書がある。
富士筑波山図屏風 六曲一双 石橋財団石橋美術館 富士山の隻は、松林や治水のための聖牛の存在から富士川から望んだ景、青く描かれる筑波山の隻は、広大な水景でやはり近くの利根川や霞ヶ浦方面からの眺めであろうか。隷書体による「噌々其一」の署名と「庭拍子」の円印がある。金地に濃墨を主体とした雄渾な描写であり、抱一没後の天保年間の其一の、文晁系など他派の特色ある画法への柔軟な接近と、それをものした筆力の充実を見る一例である。