芒野図屏風 二曲一隻 千葉市美術館 一面の薄の野に靄(もや)がたゆたう幻想的な画面。銀箔地に銀泥と墨を使い分けて、文様のように洗練化した薄の穂先の型を繰り返し全面に描いている。穂先の線はどこにもよどみがなく完璧にしなやかで美しい。其一による同じ図柄が金屏風に対する裏絵として実在し(フリア美術館蔵)、変色が少なく保存状態のよい本図は、霞などを少し違えたその翻案であろう。「為三堂」朱文瓢印と「其壱」朱文二重円印がある。
藤花図 一幅(旧襖一面) 出光美術館 琳派には藤を描いた作品が多く、早くは宗達派の金銀泥絵や木阿弥光甫に見出される。抱一にも例があるが、其一はとりわけ独立した藤図を好んだようである。
本図では大画面を活かして藤の木そのものを大きく捉え、絡み合う幹の面白さや花房や蔓の軽やかさを表現している。もと仏間の襖絵で、画面左端の中程に引き手跡が丸く残る。
藤花図 一幅 細見美術館
光悦の孫、本阿弥光甫による藤図(東京国立博物館蔵)に構想を借りるが、謹直な光甫画に比べ、其一は真っ直ぐに下がる三本の房に、細い蔓でS字を描いて画面に動きを与えている。さらに花弁の一枚一枚を微妙な色遣いで繊細に描き、優美な印象をもたらしている。装飾性を重んじる京琳派様式と、余白を活かして自然の情趣を描く江戸琳派様式の結晶をみる。
藤花図 一幅 個人蔵
よく知られた《藤花図》と見まごうほどだがこちらも素晴らしい新出作品。寸法は少し小さく、花房は一本少なく、白花を加えている。ぷっくりとした花一つ一つの膨らみと張りや、またつぼみもひと筆ずつ色を置いてゆくその微妙な加減で、見事に描き出されている。房の先がかすかにしなっているのも見逃せない。
椿に楽茶碗と花鋏図 一幅 細見美術館
椿に黒楽茶碗を取り合わせた図は、其一のよく手掛けた画題。酒井家の家臣で抱一の最初の弟子、鈴本蠣潭に先例の扇面がある。其一は蠣潭の姉と結婚しその家督を継いでおり、鈴木家好みの主題といえよう。楽茶碗は茶道、花鋏は華道を示すとも思われるが、手びねりの茶器やシャープな鋏の描写には静物画の趣がある。
雪中双狗図 一幅 個人蔵 雪に戯れる二匹の子犬を描き、後方には雪を被る万年青(おもと)の赤い実が映える。戌年の新年の掛け物だろうか。
白い子犬の目は金泥で描かれ、半開きの口の中は舌や歯、歯茎まで丁重に描き込む。新雪に足を取られる様子など、薄墨の僅かな表現で的確に表わしている。