朴に尾長鳥図 一幅 細見美術館
墨や緑青の溶みを意図的に用いたたらし込みによる葉の表現は、本図が琳派の系譜に連なる作品であることを確かに示している。しかし朴や尾長鳥といった斬新なモチーフには、どこか異国的なイメージも想起される。琳派の技法に多くを拠りながらも、最晩年の其一の関心は珍しい鳥や花といった画題へも向けられている。
海辺貝甲図 一幅 イセ文化基金
金泥の霞が朝の光を暗示する静かな浜辺の不思議な貝尽くしの景。何かを言祝ぎ、あるいは上部に賛を待つのか、連幅だったのか。淡墨や淡彩であっさりと軽く描きながら、貝はみな桃色に輝き、白い波頭は水とは思えぬ質感をもって遥か彼方から打ち寄せてくる。
最晩年の其一の穏やかな画風の中にあらわれた幻想的な雰囲気に魅了される。
西王母図 一幅 個人蔵 西王母(せいおうぼ)は菎崙(こんろん)に住む中国最高位の仙女。三千年に一度花咲く桃を後漢の武帝に授けたという。美しい仙女と桃を取り合わせた図様は、長寿の祝いとして重用された。
本図では西王母は可憐な唐美人として円窓内に座す。江戸中期より流行した円窓美人図の系譜に連なる構図、桃の花や葉にも穏やかな彩色が及んでいる。
林檎花図 一幅 愛知県美術館(木村定三コレクション) よく茂った林檎の葉の間から白い花や色づき始めた実が覗く。光琳のように、明快な色や形の面白さを狙うことが多い其一だが、ここでは葉の一枚一枚に微妙な変化をつけて描き、写実的に捉えようとしている。賛は幕臣で儒者の筒井政憲(1778~1859)。署名に添えられた「七十八叟」をそのまま解し作画も同時期とすれば、安政二(1855)年、其一の没する前年の作となる。
雨中菜花楓図 双幅 個人蔵 其一は対照的なモチーフを対幅に取り合わせることを好み得意とした。本図では菜の花と楓の春秋に、両方とも雨を降らせそれぞれの季節の雨を表現しようという難しい試みで、さりげないが超絶技巧といえよう。菜の花の柔らかい立体感をよくあらわし、蝶と蓑虫が雨にたえじっとしている。共箱だが蓋表がなく残念ながら自題は不明である。やはり最晩年の作。
雪中竹梅小禽図 双幅 細見美術館
枝に降り積もった雪を、薄い墨の外隈で表わした早春の図。降る雪、舞う雪はさらに胡粉を吹き付けて、雪らしい感じに仕上げている。
雪と雀を共通のモチーフにしながら、静と動、竹の緑に紅梅の赤など、さまざまな要素を対比させる構成が面白い。師の抱一が情趣の表現を追及したのに対し、其一は造形的な効果を重視した。
雪中檜図 一幅 個人蔵
檜の枝に積もった雪が重みで落下する瞬間を捉える。檜は琳派で好まれた画題だが、画面の右端に檜の幹を寄せ垂直性を強調した構成は、抱一の《雪中檜に小禽図》などを直接の先例としている。其一は雪が落ちるさまを真っ直ぐな白い帯で表わし、背景を淡墨にしてその白さを際立たせている。