四季図(湊旭日・白雨竹・田家月・雪中雀) 四幅 個人蔵
其一晩年の円熟して安定した筆力がよく示された四季の四幅対。それぞれのモチーフは其一画としては何度も描かれたものだが、春秋の日月のある広い景色と、夏冬のすぐ目の前の植物には雨と雪、それに蝶と雀、というようなさまざまな対比があって、よく準備された構成である。遠景の山水画などは、そのまま近代日本画のような趣がある。
牡丹図 一幅 嘉永四年(1851)初夏 個人蔵 「百花の王」牡丹を、ごく細い線で丁寧に輪郭を括り、淡いが入念な彩色を施して描かれる。例えば高桐院蔵の伝銭選筆牡丹図に代表される日本伝来の元~明時代の優品に接し、写したものに違いない。しかし完全に一致するように描いたのかどうか。左上の真っ赤な花の蕊が真正面を向くのは、其一のなせる技かもしれない。「辛亥初夏/菁々其一筆/時年五十有七」と、「其一」朱文円印があり、画中に年紀のある貴重な例でもある。
植木店図 一幅 徳島市立徳島城博物館 盛りの梅の盆栽は手入れが行き届き、ひと休みする植木職人も満足げである。其一の当世風俗の描写は京琳派にも師の抱一にも依らず、時に円山四条派や広重の速筆の人物像を想起させる。
賛者は蜂須賀斉裕の夫人標子(ひでこ)(関白鷹司政通の息女)。蜂須賀家と其一の関係を強く示唆する一図である。
初荷入船図 一幅 細見美術館
荷を満載した船が、三日月や金星の残る朝焼けの中に雄姿を表わす。積荷の米俵の前後には立派な門松が飾られ船上の人々の表情も晴れやかだ。
新年に上方から江戸へ初荷を運ぶ菱垣廻船は、まさに江戸にとっての宝船。本図は江戸の豪商が其一に特注し、正月の床に掛けて新しい年の繁栄と無事を願ったものであろう。
大山祭図 一幅 個人蔵
相模国伊勢原にある大山には山頂に大山阿夫利神社が鎮座し、江戸の庶民は講を作って毎年七月に大出詣を行う習わしだった。参詣に際しては、本図のように「大出石尊大権現 請願成就」と書いた木太刀を抱えて両国橋の橋脚下で水垢離を取り、太刀を神社に奉納する。橋脚を長く描く構図には広重の浮世絵版画の影響が指摘される。
釈迦三尊十六善神像 一幅 個人蔵 釈迦を中心に文殊、普賢の菩薩、四天王と神将・鬼神による十二善神、最前列には笈を背負う玄奘三蔵などを描く、其一による極彩色の仏画である。画面には「其式画記」(朱文重郭方印)のみで署名はないが、箱の蓋裏には「其一元長拝書」と記され、本図が特別な注文だったことを示唆している。