雪月花三美人図 一幅 静嘉堂文庫美術館
雪月花に、新吉原三浦屋お抱えの薄雲、高尾、長門の三名妓を見立て、寛文美人図の様式で描くという、趣向を凝らした作品である。上部の色紙型や短冊には抱一の手で俳句が記される。高尾と薄雲の姿は、文政八年刊の『花街漫録』の挿絵に其一が写した花明園蔵の《高尾図》《薄雲図》という菱川印のある古画を参照している。背後に企画者関係者など多くの意向が感じられ、同じ頃の作とすると、其一としてかなり早い時期の大変な力作である。
花見図 倣師宣 一幅 個人蔵 江戸の市井にまで広まった古物・考証趣味あるいは復古的な潮流を背景に、江戸琳派の絵師たちも過去の肉筆浮世絵に倣う仕事を少なからず手がけている。本図は自ら「倣師宣之図」と画中及び共箱に記すように、元禄期の菱川師宣派による花下遊楽図を抜き出して描いたものと思われ、考証的態度はないが雰囲気は伝えている。守一は描表装を得意とし作例が多いが、本図もその一例。
歳首の図 一幅 細見美術館 江戸琳派では、正月、雛祭など節句に飾る床掛けの作品を度々手掛けており、それらは描表装(絵表具・絵表装とも称し、表具の部分にも絵を描く趣向)を伴う場合も多い。
本図でも新年を寿ぐ工夫が随所に施されている。よく見れば、輪飾りは本紙の外から張り出した梅の枝に掛けられている。紅白梅に旭日が掛かり、梅の根元には笹竹を添え、上下の一文字には青地に金で松葉模様を描く。松竹梅による賑やかな描表装に対し、本紙に描かれるのは実は鶯のみという意表を突いた構成で、新春の朗らかな気分がその余白に満ちている。
紙雛図 一幅 個人蔵 表具の部分を描表装とした紙雛図。紙雛の上部は賛待ちの色紙形を、本絵の周囲の中廻しは浅葱地に枝垂れ桜を描く。その下方には雛の節句に合わせて蛤を散らす。一文字と風帯色紙形には海藻の海松模様を描いて蛤に通じるイメージとしている。
紙雛図は江戸琳派のいわば主力季節商品であった。描表装を加えることにより、一層贈り主の祝賀の心が伝わっただろう。
桜下花雛図 一幅 細見美術館 菜の花と蓮華を男雛、女雛に見立て、描表装に枝垂桜と雛道具の犬張子を描く。江戸琳派に立雛図は特に多く、中でも愛らしい花雛は其一も手掛けている。
犬張子は婚礼や女の子の誕生祝いに贈られるので、本図は初節句の祝いの品とうかがわれる。