リニューアルした自転車はゴリちゃんの心もリニューアル
ばぶさん童話 『ごりちゃんとりらちゃん』より 第7話 ごりらパパさんの自転車教室 (第3稿)
物置小屋をがさごそがさごそ ごりらパパさんは朝早くから大掃除 「どこやっちゃったかなぁ・・・。確かここに・・・」 あっちの荷物をこっちに動かし、こっちの荷物をあっちに動かして いったい何を探し物しているのでしょう。 「おや、このカバーをかけてあるものは何だったかな?」 パパさんはずるずると物置小屋の外に引っ張り出しました。 埃をぷっぷっぷーのパタパタパタとやってカバーをはずしました。 「おんやまぁ、こりゃ懐かしい。」 肝心の自分の探し物をやめて、あちこち撫でまわしました。 「パパなにやってんの?」 「うん、パパが子どもの時に乗っていた自転車だ。」 「ちょっと、おんぼろっぽくない?」 「大丈夫だ。どこも壊れていない。 ちょっとあちこち色が剥げているが 錆を落として油をさして ペンキを塗りなおせば・・・OK!」 次の日の朝早くから大張り切りのごりらパパさん。 「じゃ~~ん。かんせ~い。大成功。よくガンバリました。」 パパさんは自分で自分を褒めました。 「ぱぱぁ。ママがおひるごはんだってさ。・・・なにやってんの?」 「やあ、ごりちゃん。見てごらん。昨日の自転車。」 「わー。ぴかぴか」 「そうさ、ぴかぴかのしんぴんのぴんだ。 名付けて『ピカシンⅡ世号』パパからゴリちゃんへのプレゼントだ」 「・・・」 「おやぁ、なんだかあんまり嬉しそうじゃないね。」 「だって、ぼく、じてんしゃきらいだもん・・・」 「どうして嫌い?」 「だってぼく、じてんしゃうんてんできないんだもん」 「大丈夫さ、パパが上手に運転できるように教えてあげるさ。 上手に乗れるようになったら楽しいぞ。なんてったて 自分の好きなところに何処へだって行けちゃうんだぞ。」 お昼ご飯を食べ終わるとごりらパパさんはゴリちゃんを肩車して 鼻歌を歌いながらピカシンⅡ世号のところに来ました。 自転車はぴかぴかのしんぴんのぴんで ごりちゃんとパパを待っていました。 「さあ、練習れんしゅう・・・おや、どうしたんだい?」 「だって、ぼく、じてんしゃこわいんだもん・・・」 「どうしてこわい?」 「だってぼく、ころぶといたいからこわいんだもん・・・」 「大丈夫さ、だれでも最初は転ぶことだってあるさ。 転びながら上手になるんだ。」 「でもいたいから、やだ」 「大丈夫、上手に転べばいいのさ。」 「じょうずにころぶとどうなるの?」 「上手に転ぶとちょっとだけ痛い。」 「じょうずでなくころぶとどうなるの?」 「上手でなく転ぶと『へたっぴー』になる。」 「じゃあ、『もっとへたっぴー』にころぶとどうなるの?」 「そうすると『へたっぴーのぴぃー』になる。」 「じゃあさぁ『もっとへたっぴーのぴぃ―』にころぶとどうなる?」 「そうだなぁ『へたへたぴっぴのぴっぴりぴっぴぴー』になるな。」 「・・・じゃあさ『もっともぉーっともぉーっと…』なったら・・・」 「牧場の牛がみんなして『も~~~ぉ』と啼いて へたへたぴっぴのぴっぴりぴっぴぴーが カミナリさんと二人で空から落っこちてきて 『おおいててて』ってお尻をさすって、 お山のカラスが『カー』っと鳴いて お池で蛙が『ケロケロ』って騒いで、 もう、町中がシッチャカメッチャカになるだろうな」 ごりちゃんは顔をしかめてお尻をさする真似をしながら 「あはははは」って笑いました。
「さあ、練習れんしゅう」 だいじょうぶっかなぁ」 「ブレーキに手をかけてハンドルを軽~く持って、 ペダルを…おっとそうか。やり方替えよう。 ゴリちゃんこっちの道の少しだけ下り坂で練習だ。 ペダルはまだ漕がなくて大丈夫。」
よろよろもたもた、よろよろおっとっと。 ちょっとスピードが出てくると ゴリちゃんはブレーキをききーっと握りました。 ごりらパパさんは坂道が終わると、 もう一度スタート地点まで自転車と っゴリちゃんを押して戻りました。 ゴリちゃんはどんどん上手になってきました。 そして10回目の運転の時には何とゴリちゃん得意のでたらめ歌で ♬よーろよろ もーたもた、よろよろおっとっと よーろよろ もーたもた、よろよろおっとっと じーてんしゃ じーてんしゃ よろよろおっとっと あっちいって こっちいって よろよろおっとっと ♪ と鼻歌を歌いながら自転車を運転しました。 「ゴリちゃん。楽しいかい?」 「うん。たのしーい。ぼく、じてんしゃ、だいすきだ。」 「あっとっと。」 すってーん。 「おっ。ゴリちゃん、今の転び方、ぴんぽ~ん。大成功。」 「ちっともいたくなかった。」
よろよろもたもた、よろよろおっとっと すって~ん。ずりっ。 「よっ、転び名人!また明日も練習しよう。」 「パパァ~、いまのいたかったぁ~」 「そうかぁ。痛かったら泣いてもいいぞ。 『痛いの痛いの、夕焼雲までとんでけぇ~』っと」 パパは痛いの飛んでけダンスを踊りました。 「とんでけ~」 と、ごりちゃんもまねっこで二人一緒に踊りました。 ~お・し・まい~
◆嫌いなもの、嫌いなことがそうでなくなるということは素晴らしいことです。
その時点で抱いている『こだわり』や『思い込み』や『戸惑い』などの不安感や嫌悪感を取り除く・あるいはとかし、子ども自らが流し出せるように大人は向かい合っていきたいものです。
◆今から23年も前の話ですが、かつて私は次女の6歳のお誕生日プレゼントに「自転車に乗れる技術」をプレゼントしてみようと取り組みました。 道交法違反ではありますが、子ども用自転車に二人乗りし、私が『人間補助輪』になって彼女の背中越しにハンドルを一緒に、ゴクゴク軽く握って、彼女が自転車乗りのコツを掴み易いようにサポートしました。特別運動神経が優れた娘ではありませんが、それでも大人が本気で付き合えば延べ24時間もかからないうちに『自転車乗り』をマスターできるものだと確信しました。
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