「ライオンゴロシ」という植物は、昔、少年週刊誌のグラビアページで知りました。アフリカのサバンナに生えるこの草の実には鉤爪があって、動物の毛にしっかりとくっついてしまう。ライオンが、この実を口でとろうとすると、今度は口に刺さってしまう。その痛さのためにライオンは物を食べることができなくなり、餓死してしまうというのです。
テレビなどで野生のライオンの映像を見ると、たしかにこの実がくっついている個体がいるのです。ヒッツキムシと呼ぶにはあまりに巨大な実です。でもライオンは無理やり取り去ろうとはしていないようでした。気にしないで生き延びた個体の子孫が繁栄したのかな、などと思ったりして。
こどものころはオナモミが人気で、ポケットにしこたま詰め込んで登校し、投げて友だちのセーターなどに命中させて遊んだものです。悪質なのは、髪の毛にくっつけてさらに手でクシャクシャにしてやるのです。ついに取れなくなってハサミで髪の毛を切らなければならず、泣いて抗議されたこともあったっけ。そのせつはごめんなさい!
原っぱで巨大なオナモミを見つけてうれしかったこと。ピンポン球ほどの大きさで、マンガの機雷のようなとげがある。しかしくっつきはしなかったのでちょっと変だなとは思ったのですが。宝物入れに隠しておいて、後で見たらぱっくり割れて中でウジ虫がうごめいていました。ぎょっとして捨てました。
後でわかったのですが、それはチョウセンアサガオの実でした。今人気のエンゼルトランペット(ダツラ、ダチュラ、マンダラゲなど、たくさんの名前がありますね。)この仲間は神経を麻痺させ幻覚を起こす猛毒です。ウジ虫に見えたのは白い種子で、怖ろしさのあまり動いているように見えたのでしょう。
迷犬ハッチと森を散歩していると、草の実の多くが実はヒッツキムシであることがわかります。ヌスビトハギやイノコヅチばかりではなく、イネ科の種子もノギでくっつくし、ミズヒキソウ、キンミズヒキ、ヤブタバコなどありとあらゆるものがくっつくのです。
年甲斐もなく若者のように薮に突進するハッチは全身に草の実をくっつけて、野良犬にもどってしまったかのよう。
でも犬がブルブルっと体をふるわせると、ほとんどが落ちてしまいます。動物が死ななければ子孫を残せないライオンゴロシと違い、日本のヒッツキムシは優しい(?)のです。というより、接着力をコントロールしなければ繁栄できないということでしょう。
イノコヅチなどセーターや靴下につくとなかなか取れなかった記憶があるのですが、直毛が多い動物にとってはそれほどしつこくはないようです。ニットは自然界にはないので。
やれやれ、今朝のハッチの顔を見てやってください。
松の木にからみついたツタウルシの紅葉がみごとです。大切な防風林が荒れている証拠ではあるのですが。